「映画を見たらオペラも見ようよ」目次2003-09-01

※「映画を見たらオペラも見ようよ」は2000〜03年にstravinsky ensembleから「mao2net」へ寄稿させていただいたコラムです。
同サイト閉鎖のため許諾をいただきこちらに転載しました。

映画に登場するオペラ作品の数々をとりあげて、
わかりやすく楽しく紹介するコラムです。
この映画もう一回見直してみよう、オペラっておもしろいんだね、って
少しでも思っていただけると嬉しいです。


第22回『ニーベルングの指輪』前編
第21回『フィツカラルド』
第20回『セビリアの理髪師』
第19回「人知れぬ涙(愛の妙薬)」
第18回「星は光りぬ(トスカ)」
第17回「誰も寝てはならぬ(トゥーランドット)」
第16回 アマデウス
第15回 ウディ・アレン
第14回『ファールプレイ』&『ミカド』
第13回『アンタッチャブル』&『道化師』
第12回『ゴッドファーザーpart3』&『カヴァレリアルスティカーナ』
第11回『ベアーズ』&『トレインスポッティング』&『カルメン』
第10回『ジャンニスキッキ』&『眺めのいい部屋』前編 後編
第9回『ショーシャンクの空に』&『フィガロの結婚』
第8回『フィラデルフィア』&『アンドレアシェニエ』
第7回『ディーバ』&『ワリー』
第6回『ルチア』&『フィフスエレメント』その1 その2 その3 その4
第5回『オペラ座・血の喝采』&『マクベス』
第4回『ミーティングヴィーナス』&『タンホイザー』
第3回『危険な情事』&『蝶々夫人』
第2回『月の輝く夜に』&『ボエーム』
第1回『プリティーウーマン』&『椿姫』

<mao2フリーペーパー編>
re-new vol.7 絵本ノススメ(COMPILED BOOK)
vol.4 二度あることは三度ある(mao2いろは歌留多)
vol.1 MY FAVORITE OPERA(A to Z)

本嫌いによる本嫌いのための絵本ノススメ(COMPILED BOOK)2003-09-01

決して本が嫌いなのではない。本を読むという行為が分断されるのが嫌いなのだ。少しずつ楽しみに読むなんて考えただけで気が狂いそうになる。何としてでも一気に読みたい。そんな性格のせいでだんだん本を読まなく、いや読めなくなった(だって読み始めるのに相当な覚悟が必要なんだもん)。本棚は楽譜に占領され、やたらデコボコな一角だけがかろうじて残っている。その正体は絵本。特に探し集めたつもりもないのに、昔から持っていたものやふと書店で目にとまったものが、いつのまにかデコボコを形成している。それにしても絵本ってどうしてこんなにサイズがバラバラなんだろう。綺麗に片付けさせないための陰謀としか思えない。飛び出しているのでつい手に取り、五分で読めるはずなのに気付いたら一時間経ってしまい、でもなんだかゲンキになっていたりするから不思議だ。

*What is this? なにかしら
ヨゼフ・ウィルコン/いなばゆう/セーラー出版

16匹の動物の頭、胴、足が切り離されていて4096通りの組み合わせが楽しめる絵本。友人が来た時にこれを置いておき、お茶でもいれながら観察すると面白い。几帳面に元の動物を揃えて見ていく人、とんでもない組み合わせを見つけて「ねえねえこれ」と嬉しそうに言う人、すぐ閉じる人(レッドカード)。

*カエルのバレエ入門
ドナルド・エリオット/クリントン・アロウッド/岩波書店

バレエの基本のポーズと動きを図解した絵本、ここまでは普通。しかしカエルなのである。「完成からほど遠いものは、おそろしいほどばかばかしさに近づいてしまう」のはバレエも絵本も同じなわけで、最初はクスッと笑いながら読み始めても、だんだんカエルの肉体が美しくさえ見えてくるのがスゴイ。

*ワニのオーケストラ入門
ドナルド・エリオット/クリントン・アロウッド/岩波書店

こちらはいろいろな楽器を演奏するワニ。楽器の独白コメントもスパイスが効いていて読み物としても楽しめるし、もちろん素直に楽器図鑑にしてもいい。「なぜワニでなければならないのか、たぶんこれについては子供たちの方が、もっとずっといい答を見つけてくれることでしょう。」ニクいなぁ。

*るんぷんぷん
ハンス・フィッシャー/さとうわきこ/小さな絵本美術館・架空社

「るんぷんぷん」とはパレードの太鼓の音。ブレーメンの音楽隊などいろいろなおとぎ話のパレードが、細長い見開きいっぱい次々に行進していく。蛇腹でつながってたらもっと楽しいのに、なんていう願いもちゃんとわかってくれてて、ちっちゃいけど細長くつながったプリントのオマケつき。

*くまとりすのおやつ
きしだえりこ/ほりうちせいいち・もみこ/福音館書店

くまとりすがいちごをつんで食べる小さなお話。「りすはひとつだけたべておなかいっぱい/ちいさいんですからね/くまはたくさんたべておなかいっぱい/おおきいんですからね」というシンプルさ。切り絵の二匹といちごを眺めているだけで幸せな気分になれる、私の「童心ドア」的一冊。

*Pet of the MET
Lydia & Don Freeman/New York Viking Press

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場に住むネズミのマエストロ・ペトリーニはプロンプターの譜めくりがお仕事。休みの日には家族でオペラを上演しちゃうステキなおとうさんだ。ある日おとうさんは「魔笛」上演中の舞台に飛び出して…。「魔笛」入門にもなる(のか?)、ほどよいサイズの楽しいお話。

*Higglety Pigglety Pop!
Maurice Sendak/Harper & Row Publishers

このヘンテコな物語はなんとオペラ化された。センダックは舞台美術や脚本を担当したことはなく、ナッセンもオペラを作曲したことがなかったが「ミス・ジェニーのように新しい経験を求め」意気投合したのだそうだ(粋!)。原作そのままの世界が再現される舞台は、賛否両論あろうとも必見。


CB当番・川北祥子 ピアノ奏者(stravinsky ensemble)
フリーペーパーmao2 re-new vol.7掲載

『ニーベルングの指輪』前編2003-06-09

映画に登場するオペラ作品の数々をとりあげて、
わかりやすく楽しく紹介するコラムです。
この映画もう一回見直してみよう、オペラっておもしろいんだね、って
少しでも思っていただけると嬉しいです。


映画を見たらオペラも見ようよ
第22回『ニーベルングの指輪』前編
『ラインの黄金』『ワルキューレ』
~ホヨトホは狂気?それともギャグ?

ワーグナーといえば『地獄の黙示録』のヘリコプターのシーンに使われた「ワルキューレの騎行」。『地獄の黙示録』公開時には配給会社の懸念か戦略か、ヘリでワーグナーを鳴らしたのは実話だとかワルキューレとは死体運搬人だとか「ワルキューレの騎行」についても大きく紹介され、一躍有名になったこの曲はすっかり「狂気」の音楽として定着してしまいました。しかし昔からインパクトのある曲は深刻であるほどギャグにされてしまうのが常(バッハの「トッカータとフーガ」だとかベートーヴェンの「運命」だとか)。実はこの曲も真面目に使われたのは『地獄の黙示録』くらいで、ギャグのほうが圧倒的に多いのではないでしょうか。いや、あのヘリのシーンにしても、ワーグナーなんか聴いてイッちゃってるオバカっていうように私は思えてしまうのですけれど。それよりドアーズの「The end」のほうがずっと重要ですよねロッキー・ノボルさん?
(※追記:「ROCK魂」ロッキー・ノボル氏からいただいたコメントを本文最後に掲載しました。)

というわけで今や『黙示録』のパロディにも欠かせなくなってしまった「ワルキューレの騎行」ですが、『黙示録』以前のギャグをいくつか。

まず一番典型的なのが『何かいいことないか子猫チャン』(1965英)。エキセントリックなオペラ歌手が浮気中の夫をワルキューレ姿で叫びながら追いかけます。そもそも歌詞(雄叫び?)の「ホヨトホ」「ハイアハー」からして笑えるわけで、その上背中に羽のついた甲冑姿という『ワルキューレ』は格好のギャグネタ。オペラやオペラ歌手を滑稽に見せる時に必ず使われるパターンと言えるでしょう。もちろん真面目にオペラらしさを演出している場合もあるとはいえ、TV「セサミストリート」にゲスト出演したオペラ歌手がワルキューレの格好で「Sing after me」(セサミの定番ソング)を歌ったりするとやはり笑えてしまうというもの。

現実と幻想ごちゃまぜのフェリーニ作品『8 1/2』(1963伊)の冒頭では「ワルキューレの騎行」をガーデンパーティの楽団が演奏しています。まあ曲の雰囲気からしてもミスマッチなのですが、百人以上の編成で演奏されるはずのこの曲をそんな十数人のオケではできんだろう、というちょっと上級なギャグでもあり、どうも現実ではない?と気付かせる意味も。そしてしっくりなじむ『セビリアの理髪師』序曲でホッとさせられるあたりは見事。

上級ながら悪ノリなのがケン・ラッセル監督の『マーラー』(1974英)と『リストマニア』(1975英)。ラッセルにしては美しい『マーラー』なのに、ワーグナーの妻コジマとマーラーが「ワルキューレの騎行」の替え歌を歌うシーンは完全なギャグ。『リストマニア』ではワーグナー夫妻の主宰する悪魔教(?)のテーマソングが「ワルキューレの騎行」で、こちらはロックミュージカル仕立てのリストの伝記(と銘打つもののもちろんフィクションというかパロディ)といういかにもラッセルらしい怪しげな作品。

さて『ワルキューレ』は全体で14時間以上かかる四部作『ニーベルングの指輪』の二作目にあたります。一作目は前夜劇と呼ばれる『ラインの黄金』で、約2時間半かけてお話の前提が語られますが、物語の中心は二作目『ワルキューレ』2幕でやっと登場するブリュンヒルデと三作目で初登場のジークフリート。二人は三作目のラストでやっと出会うという、お茶漬けさらさらすすってる民族にはかなり辛い壮大さです。今回は前半二作のストーリーをどうぞ。

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◆前夜劇『ラインの黄金』
1場、神話の時代。ライン河の底。ニーベルング族の小人アルベリヒは、ラインの乙女たちの守る黄金が世界を支配する指輪を造ることのできる宝と知り、それを奪い去る。

2場、地上。大神ヴォータンは新しい城を巨人族の兄弟に建設させたが、その報酬に妻フリッカの妹フライアを巨人たちに与えるという約束を破る。怒った巨人たちはアルベリヒの黄金となら交換すると言ってフライアを人質に連れ去る。

3場、地底。アルベリヒは黄金から指輪と隠れ頭巾(姿を消したり好きなものに化けられる)を造らせていたが、ヴォータンと半神ローゲは大蛇に化けたアルベリヒをヒキガエルに化けさせて捕らえる。

4場、地上。ヴォータンに指輪を奪われたアルベリヒは指輪に呪いをかけて去る。そこへ巨人兄弟がやって来て人質のフライアと交換に指輪を奪うと、アルベリヒの呪いが早くも現れ兄が弟を殺して去る。神々は輝かしい新しい城へと虹の橋を渡って行くが、神々の黄昏も近いとローゲはつぶやく。
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◆第1日『ワルキューレ』
1幕、古代ゲルマン世界。ナイディング族のフンディングの館では敵ヴォルフィング族の傷付いた戦士を一晩泊めることになったが、戦士とフンディングの妻が語り合ううち、二人は本当はヴェルズング族で、生き別れた双子の兄妹ジークムントとジークリンデとわかる。ジークムントはかつて館の樹に父ヴォータンが刺してから誰も抜く事ができなかった聖剣ノートゥングを見事に引き抜き、兄妹は逃亡する。

2幕、ヴォータンが人間族に指輪奪回の期待をかけて人間の女に子供を産ませ聖剣も与えていた上、その兄妹が愛に走ったと知って妻フリッカはさらに怒りをつのらせ、ジークムントとフンディングの戦いでフンディングを勝たせるようヴォータンに迫る。ヴォータンの命を受けた娘ブリュンヒルデはジークムントに死を宣告しに行くが、兄妹の強い愛に心動かされ、ジークムントをかばう。しかしヴォータンが自ら現れてジークムントの剣を砕き、ジークムントは倒される。ブリュンヒルデはジークリンデを連れて逃げる。

3幕、「ワルキューレの騎行」の音楽でワルキューレ(戦士した英雄を城に運ぶいくさ乙女でヴォータンの9人の娘達から成りブリュンヒルデもその一人)たちが集まると、ブリュンヒルデがジークリンデを連れて来る。ジークリンデは死を懇願するが、ジークムントの子供を宿していることを知らされ大蛇の森へと逃げる。そこへ現れたヴォータンは、娘ブリュンヒルデを愛しているものの、神に背いた罰を彼女に与えなければならず、岩山にブリュンヒルデを眠らせ、真の勇者のみが彼女を目覚めさせるようにと周りを炎で守り、去って行く。
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狂気とも笑いとも裏腹に本当はなかなか泣ける『ワルキューレ』なのですが、さらにお話が佳境に入るにつれ映画でも真面目に使われるようになるのかそれとも…?次回は『指輪』後編『ジークフリート』『神々の黄昏』です。

※「ROCK魂」ロッキー・ノボル氏から
コメントをいただきました!
川北さん、こんちは。ロッキー・ノボルです。「地獄の黙示録」とドアーズですか?どちらも「狂気」という言葉が思い浮かぶ。「狂気」は特別なものではなく、身近な存在ということを言いたかったのかもしれないな。

「狂気」っていや、コッポラ自身も「狂気」だったかも。俳優の病気や観測史上最大の台風なんかで撮影が大幅にのびちゃって、そのせいか個人資産の大半をつぎ込んじゃって(ゴッドファーザーも売っちゃったんでしょ?)、しかも370時間もフィルム撮っちゃったから、編集に2年もかかって、彼にも狂気が芽生えていたはず。

ちなみに俺はこの前、3時間のビデオテープ渡されて、10分に編集するという仕事をやったが、充分「狂気」が芽生えたぜ。(同じレベルにするなって…。)

しかし、ドアーズの「THE END」の選曲は間違えてないと思うな。ドアーズはまさにベトナム戦争時にヒットをとばしたが「ベトナム戦争とドアーズは表裏一体」とか「ベトナム戦争=ドアーズ」とまで言いきる者もいる。これにはベトナム戦争時代のアメリカは、軍や兵士だけの問題ではすまされない様々な問題を抱えた時代であったということも関係してるんだろうな。

「THE END」のインパクトは、いつ聞いても強烈。精神分析的な曲の歌詞や構成を細かく精神分析しているファンもいるようだが、ドアーズのその時の魂が、人の心のどこかに共鳴しているのではないかと思ってる。

でもさ、戦争の狂気だったら、火炎放射器をぶっ放しながら同じくドアーズの「LIGHT MY FIRE(邦題:ハートに火をつけて)」を大声で歌う兵士のほうが狂気…、って、これこそギャグか!コッポラはやっぱ正気だったのだ。

おじゃましますた…。


◇『地獄の黙示録』APOCALYPSE NOW(1979米)
監督:フランシス・フォード・コッポラ
音楽:カーマイン・コッポラ
出演:マーロン・ブランド/マーティン・シーン

◇『マーラー』MAHLER(1974英)
監督:ケン・ラッセル
出演:ロバート・パウエル/ジョージナ・ヘイル

◇『リストマニア』LISZTOMANIA(1975英)
監督:ケン・ラッセル
音楽:リック・ウェイクマン
出演:ロジャー・ダルトリー/リンゴ・スター

◆『ニーベルングの指輪』DER RING DES NIEBELUNGEN(4部作)
前夜劇『ラインの黄金』DAS REINGOLD(1869初演)4場
第1日『ヴァルキューレ』DIE WALKÜRE(1870初演)3幕
作曲:ワーグナー R.Wagner(1813-83)
原作:中世叙事詩「ニーベルングの歌」等を参照
台本:作曲者

川北祥子(stravinsky ensemble)
東京芸術大学大学院修了、「トムとジェリー」とB級映画とパンダを愛するピアノ奏者。
「トムとジェリー」からはクラシック音楽の神髄を、
B級映画からはお金がなくても面白いコトに挑戦する心意気を学ぶ。
パンダからは…?


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*オマケ話(gingapanda掲載の連動コラム)
宇宙家族ロビンソン

その昔『スタートレック』がTVシリーズで『宇宙大作戦』と呼ばれていた頃、『ロストインスペース』は『宇宙家族ロビンソン』でした。あの頃はSFと言っても、カーク船長は出会った宇宙人と恋に落ちてばかりだし、ロビンソンのほうは、知らない宇宙人についていってはいけないよ、とか、宇宙人は見かけで判断しちゃいけないよ、とか小学校の道徳の時間のドラマそのもの、しかもその宇宙人も銀色や緑色の全身タイツはまだしも、開き直って(?)ただのタキシード姿だったりヒッピー姿だったりしたのでした。そしてその中にいたのが「ハイアハー」と高らかに歌う甲冑姿の宇宙人!しかしまだコドモだった私にそのヘンな叫びがワーグナーだと解るはずもなく、その後初めて本物の「ハイアハー」を聴いた時には、カーク船長がCMあけに「制服を着る」シーンの意味がわかった時と同じくらい大きなショックを受けたのでした。ちなみにケン・ラッセル『マーラー』でのコジマ役はTV『謎の円盤UFO』の月面基地隊員アントニア・エリスさんの怪演です。これもショックだったなぁ。(ラッセル&アントニア・エリスでは『ボーイフレンド』も必見。)