『月の輝く夜に』&『ボエーム』2000-07-17

映画に登場するオペラ作品の数々をとりあげて、
わかりやすく楽しく紹介するコラムです。
この映画もう一回見直してみよう、オペラっておもしろいんだね、って
少しでも思っていただけると嬉しいです。


映画を見たらオペラも見ようよ
第2回『月の輝く夜に』を見たら『ボエーム』も見ようよ
~メトロポリタン歌劇場でデート!

『月の輝く夜に』で印象に残るシーンは何と言ってもメトロポリタン歌劇場でのデートでしょう。シェールとニコラス・ケイジも、待ち合わせた噴水の前でお互いのドレスアップした姿に気付かずキョロキョロしていましたが、あれだけゴージャスなメトロポリタン歌劇場に出かけるとなると誰でも正装したくなりますよね。本当は最初で最後のデートのはずだったのにオペラを見るうちいつしか2人は手を絡ませ、帰り道ケイジはそれまで決して触れさせなかった義手の左手を差し出してシェールもそれに応えたのでした。そして2人が見た『ボエーム』もまた、月明かりの中で手が触れて恋に落ちたカップルのお話です。

ではその『ボエーム』のあらすじを。(ピンク色の部分は映画に出てきたシーンです。)

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第1幕。クリスマスイヴ、パリの屋根裏部屋で貧乏な芸術家が男4人で暮らしている。家主が家賃を取りに来るが4人は酒を飲ませて巧みに追い払う。やがて3人は街に繰り出し詩人のロドルフォが一人残って原稿を書いていると、階下に住むお針子のミミがロウソクの火を借りにやって来る。ロウソクが消え、ミミが床に落とした鍵を手探りで探すうち2人の手が触れると、月明かりの中で2人はすぐに恋に落ちて一緒に仲間のいるカフェに向かう。

第2幕。ロドルフォはミミを仲間に紹介する。そこへ仲間の1人マルチェッロの昔の恋人ムゼッタがパトロンとやって来るが、どうも彼女はマルチェッロにまだ気がある様子。そこで皆はまたもや巧みにパトロンを追い払い勘定書も彼に押し付けて、ムゼッタを連れて逃げ帰る。

第3幕。何週間か後、ロドルフォは肺病のミミを貧乏な自分ではどうすることもできず一緒にいるのは辛いとマルチェッロに話しミミもそれを聞いてしまう。2人は愛し合っているけれど別れようと決意する。その傍らでムゼッタとマルチェッロは喧嘩別れする。

第4幕。ロドルフォもマルチェッロも恋人が忘れられないがまた男4人愉快に過ごしている。そこへ残された時間をロドルフォと暮らしたいという瀕死のミミをムゼッタが連れて来る。皆は薬を手に入れるために持ち物を売ったりと手を尽くすが、その甲斐もなくミミは死んでしまう。
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さてここで初めてオペラを見たシェールの感想を分析?してみましょう。

まず休憩でロビーに出て来たシェールは「まあ部分的にはよかったわね」と冷静。きっとこれは2幕の後の休憩でしょう。2幕までは6人の面白おかしい生活が描かれていてテンポも速く、笑っているうちに終わってしまいます。「部分的」というのは1幕のミミとロドルフォのシーンにはうっとりしたとか2幕の19世紀パリのカルチエラタンの装置は見事だったとか、そのあたり?

感動は3幕から。お互いをいたわって、愛し合っているけれど別れようという2人に、シェールの目から涙がこぼれケイジと手を握りあいます。やはり一番の名場面、誰もがこのあたりからしんみりしてくるはず。さあここからがヤバいのです!4幕は瀕死のミミがこれまでの思い出を歌う名旋律の走馬灯、それもなかなか死なないのでこれでもかと泣かされますよ。終演後のシェールも「病気だとは聞いてたけど死ぬとはね!結核?セキしてたけど歌ってたじゃない!」と皮肉っぽく話していましたが、誰もが泣かされたバツの悪さでそんな風に振る舞ってしまうのではないでしょうか。でも『ボエーム』は笑えて泣けるのが魅力なので、みなさんも素直に笑って泣かされてシェールと同じ道を辿りましょう。

「セキしてたけど歌ってた」「病気なのに太ってた」などとつっこむ人はよくいますが、まあそのくらいは許してあげて下さい。そもそも歌で会話してる事からしてヘンなんですから。ついでに言うとオペラは基本的に客席を向いて歌うので、例えば見つめ合ってるという設定なのに2人してこっちを向いてたりしてちっともリアルじゃないですし。生でなくDVDなどの映像で観る場合も、オペラそのものを味わうには「舞台を撮影したもの」をお薦めしたいですが、「映画仕立てのもの」ならその辺はリアルだったり、屋外ロケはもちろんCGまで駆使していたり、またゼッフィレッリ監督作品(上演の演出もしてますが)なんてのもありますのでお好みで。

さて『月の輝く夜に』は音楽にも時折『ボエーム』からの編曲が混じり、『ボエーム』の大道具を積んだメトロポリタン歌劇場の車が走る冒頭からボエーム&メト尽くしで、とにかくメトなしには成り立たない映画でしたね。

次回はメトに行かなかった2人、『危険な情事』。

◇『月の輝く夜に』MOONSTRUCK(1987米) 監督:ノ-マン・ジュイスン
音楽:ディック・ハイマン
出演:シェール/ニコラス・ケイジ

◆『ボエーム』LA BOHÈME(1896初演)全4幕
作曲:プッチーニ G.Puccini(1858-1924)
原作:ミュルジェールの小説「ボヘミアンの生活情景」
台本:ジャコーザ/イッリカ

川北祥子(stravinsky ensemble)
東京芸術大学大学院修了、「トムとジェリー」とB級映画とパンダを愛するピアノ奏者。
「トムとジェリー」からはクラシック音楽の神髄を、
B級映画からはお金がなくても面白いコトに挑戦する心意気を学ぶ。
パンダからは…?

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