『がんばれベアーズ』&『トレインスポッティング』&『カルメン』2001-08-24

映画に登場するオペラ作品の数々をとりあげて、
わかりやすく楽しく紹介するコラムです。
この映画もう一回見直してみよう、オペラっておもしろいんだね、って
少しでも思っていただけると嬉しいです。


映画を見たらオペラも見ようよ
第11回『がんばれ!ベアーズ』と
『トレインスポッティング』をつなぐ『カルメン』
~ハバネラって誘惑の歌じゃなかったの?

『がんばれ!ベアーズ』と『トレインスポッティング』を並べて語るなんて、このコラム以外ではありえない組み合わせかもしれません。共通点はずばり『カルメン』。『トレインスポッティング』のどこにオペラが?と驚かれる方も多いと思いますが、何と「あの」トイレのシーンで『カルメン』の「ハバネラ」が使われていたのです。さすがにカッコイイ音楽であのシーンにぴったりのはなかったのか、それともクラシックそのものがサイアク(というか滑稽)な音楽だというのでしょうか。

『がんばれ!ベアーズ』はもう説明不要ですね。でもあの景気のいい「序曲」はベアーズが大進撃を始めてから流れるもので、実は冒頭のヘボヘボの初練習シーンでは「ハバネラ」。やはりサイアク(というか滑稽)な音楽として使われているのが興味深い所です。しかしこのサイアクな「ハバネラ」、本来はカルメンが男達に「私に惚れられたら気をつけな!」とけしかける誘惑の歌だったはずなのですが。

ではこのコラム初のフランス・オペラ『カルメン』のストーリーです。(なお『カルメン』の中で「ハバネラ」だけは既成曲からの引用。)

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1幕、タバコ工場前の広場。女工達の中でもひときわ魅力的なカルメンが「ハバネラ」を歌う。花を投げつけられた竜騎兵ホセはカルメンに惹かれてしまうが、恋人ミカエラが故郷からやって来て母の手紙とキスを伝えるので、ホセはミカエラとの結婚を決意する。ミカエラが去ると喧嘩が起こってカルメンが逮捕され、連行役になったホセは誘惑されて彼女を逃がしてしまう。

2幕、セビリアのはずれの酒場。ホセを待つカルメンは闘牛士エスカミリオに言い寄られても相手にしない。やっと現れたホセはおまえが投げたこの花を片時もはなさずにいたと想いを語り、カルメンはそれなら軍隊を脱走してジプシーの仲間になれと言う。

3幕、山の中でジプシー達と暮らすホセの所へエスカミリオが来て、カルメンをめぐって決闘となるが皆にとりおさえられる。そこへミカエラが母の病気を告げに来ると、すでにホセへの愛の冷めているカルメンは帰るようにすすめ、ホセは未練を残して去る。

4幕、闘牛場にエスカミリオがカルメンを伴って登場する。カルメンが一人になるとホセが現れもう一度やり直してくれとせがむが、カルメンはエスカミリオを愛していると言ってホセからもらった指輪を投げつける。自分を行かせるか殺すかだと迫られ、ホセは短剣でカルメンを刺し殺し、愛していたと叫ぶ。
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『カルメン』には「台詞と曲に分かれているもの」(オペラ・コミーク形式)と、別の作曲家が台詞部分を作曲した「台詞部分も歌になってつながっているもの」(グランド・オペラ形式)の2つのバージョンがあります。現在一般的となっている後者は音楽がたっぷり続く「壮大なオペラ」という雰囲気なのに対し、オリジナルの前者では台詞と曲とが切り離されている分、お芝居らしさ、フランスらしい軽さ、また次々に多彩な曲が出てくる面白さも強調されるように思います。その「多彩な曲の魅力」は『カルメン』の人気の理由の一つで、オペラとしてだけでなくオーケストラの演奏会でも、「序曲」や「間奏曲」に「ハバネラ」「闘牛士の歌」などの歌のオーケストラ用編曲も加えて作られた「組曲」が管弦楽曲としても親しまれていますし、サラサーテ(ヴァイオリン)やブゾーニ(ピアノ)といった当時の名演奏家たちもこぞって『カルメン』を演奏会用に編曲(「カルメン幻想曲」など)しています。

というわけで、『がんばれ!ベアーズ』と『トレインスポッティング』でオペラを聴いた覚えはないとお思いだった方はごめんなさい。このニ本はオペラといってもオ-ケストラによる「組曲」が使われていたので歌は入っていなかったんですね。

ところで「あ、ハバネラ?」と思わせて実は別の曲だったのが『女と男の名誉』(1985米)。特徴的なハバネラのリズムにのせて『セビリアの理髪師』序曲(セビリアつながり?)が演奏されます。マフィアの犯罪シーンに流れるにもかかわらず、ここでも滑稽さが出ていたのが不思議。パーティで『愛の妙薬』の「人知れぬ涙」を歌うオペラ歌手も、なんだかヘタクソで「祝いの席の村のゲイシャ」のようです。イタリア系の人々にとってオペラはそういうものなのでしょうか…?

次回はマフィア映画といえば忘れてならない名作、劇中の『カヴァレリア・ルスティカーナ』が印象的だった『ゴッドファーザーpart3』。

◇『トレインスポッティング』TRAINSPOTTING(1996英)
監督:ダニー・ボイル
出演:ユアン・マクレガー/ユエン・ブレムナー

◇『がんばれ!ベアーズ』THE BAD NEWS BEARS(1976米)
監督:マイケル・リッチー
音楽:ジェリー・フィールディング
出演:ウォルター・マッソー/テイタム・オニール

◆『カルメン』CARMEN(1875初演)全4幕
作曲:ビゼー G.Bizet(1838-1875)
原作:メリメの小説
台本:メイヤック/アレヴィ

川北祥子(stravinsky ensemble)
東京芸術大学大学院修了、「トムとジェリー」とB級映画とパンダを愛するピアノ奏者。
「トムとジェリー」からはクラシック音楽の神髄を、
B級映画からはお金がなくても面白いコトに挑戦する心意気を学ぶ。
パンダからは…?


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*オマケ話(gingapanda掲載の連動コラム)
がんばれベアーズ

『がんばれ!ベアーズ』は初めて劇場で見た映画。アマンダに憧れて兄のお古のグローブはめて天井にボ-ル投げて独りキャッチボールしたりしてました。ウォルター・マッソーの「缶ビールをプシュっと開けて中身をちょっとこぼしてウィスキーを入れる」は子供にはカッコよく見えてこれも憧れでした。もちろんオトナになってからやってみました。カッコいいものではないけど味は追求の価値アリかもと思ってます。※もったいないのでビールはこぼさないで飲むコト。

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