ストラヴィンスキーアンサンブル2005-06-10

※カフコンス以前の公演記録を旧websiteから移動しました。

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*ストラヴィンスキーアンサンブル とは1990年東京芸術大学の大学院生によって設立された若い演奏家による自主公演プロジェクト。名前の由来はただ単に旗揚げ公演がストラヴィンスキー作品だったという実に単純な命名。あえて言うならば変幻自在にスタイルを変えたストラヴィンスキーのように毎回変化に富んだ活動をしていきたいという願いがこめられている。


* 主催公演歴

カフコンス
 →終了したカフコンス

プーランクシリーズ

第4回 2005/06/10 祈りと悲歌
第3回 2002/08/08 「六重奏曲」と「仮面舞踏会」
第2回 2002/03/22 コクトーのテキストによる作品とクラリネット
第1回 2001/11/12 ヴィルモランのテキストによる作品とフルート

サロンコンサート

第8回 1998/04/17 増補
第7回 1998/03/11 la chanson la plus charmante 愛の歌
第6回 1997/12/27 les songes des oiseaux 鳥の夢(協賛:ハーモニースクエア管理)
第5回 1997/02/26-27 Donizetti!
第4回 1995/04/28-29 BERNSTEIN!
第3回 1994/04/07 サンサーンス/ミヨー四重奏の夕べ
第2回 1994/01/08-09 NEW YEAR OPERA CONCERT
第1回 1991/07/07 木管とピアノによるミヨーのソナタ

公演

第2回 1993/08/26 ラヴェル「子供と魔法」(主催:ストラヴィンスキーアンサンブル・ACC財団法人荒川区地域振興公社 共催:荒川区)
第1回 1990/10/18 平成2年度文化庁芸術祭参加公演 ストラヴィンスキーの夕べ(共催:板橋区・板橋区演奏家協会)

その他

1997/11 「東京ドームであなたの夢かなえます」優秀賞

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祈りと悲歌2005-06-10

Série Poulenc ~ à Mickey プーランクシリーズ 4
於:榎坂スタジオ

*曲目

Francis Poulenc (1899-1963)
フランシス・プーランク:

Mélancolie (1940) メランコリー
(川北祥子 pf )

Priez pour paix (1938) 平和への祈り
Le disparu (1947) 消えた男
Dernier poème (1956) 最後の詩
(藪内俊弥 bar 川北祥子 pf)

Elegie (1957) エレジー
(大森啓史 hr 川北祥子 pf)

Litanies à la Vierge Noir (1936)
 ロカマドゥールの黒衣の聖母への連祷
Ave verum cormus (1952) アヴェヴェルムコルプス
Dialogues des Carmélites (1956) カルメル派修道女の対話 より
  2幕1場 Qui Lazarum
  2幕2場 Ave Maria
  2幕4場 Ave verum corpus *
  3幕4場 Salve Regina
(渡辺有里香 辻村倫子 sop 矢ヶ部直子 mez / * 藪内俊弥 bar)

encore:スターバトマーテル (1950) より
  第8曲 Fac ut ardeat
(渡辺有里香 辻村倫子 sop 矢ヶ部直子 mez)


*解説/歌詞大意

*メランコリー
 「メランコリー」はプーランクの作品の中では駄作に分類される。たしかに百曲以上のピアノ作品の中で単独曲最長(といっても6分なのだが)でありながら素晴しい構成ではないかもしれず、駄作だから「憂鬱」だとまで言われる始末である。しかし作曲背景を考えると、一見穏やかで美しいこの曲がなぜ「憂鬱」なのかが見えてくるように思うのだ。すなわち前年に高射砲隊に従軍したプーランクは1940年に除隊、パリ郊外の自宅へ戻る途中に山間部の田舎の友人の家で夏を過ごした。「祖国のために死んでいく人達から遠い場所」で、彼が清々しさだけを味わってはいられなかった事を、この時書かれた「メランコリー」は物語っているのではないだろうか。(川北)

*平和への祈り/消えた男/最後の詩
 プーランクはインスピレーションを感じた詩のみに曲を書き、選んだ詩は同世代から中世にまでさかのぼり様々です。「平和への祈り」は約500年前の詩ですが、プーランクは第二次大戦間近という状況で新聞に載っていたこの詩を見つけ、時代を超えた率直な平和への願いを重ね合わせました。後の2曲は同世代の詩人デスノスの詩で、「消えた男」は当時ドイツ軍占領下にあったフランスで現実に起こり得る友人の失踪の悲しみや怒りを、そのままぶつける事なくシャンソン風に表現しています。「最後の詩」は、デスノスがチェコの収容所で亡くなった時、煙草の紙に書き遺していた詩に、プーランクが曲をつけ、デスノス夫人のユキに捧げたものです。いずれもプーランクの卓越した感受性が惜しみ無く聞き取れる曲です。(藪内)

「平和への祈り」(シャルル・ドルレアン)
平和のためにお祈り下さい 優しいマリア様
天の女王 世界の女主人である神様
お祈りさせて下さい あなたの御慈悲で
聖者たち聖女たちに あなたの請願で
気高さを求めるあなたの御子に
人々が血で罪をあがなおうとしたのだと
みなして下さいますように
すべてを奪う戦争を否定するために
祈り疲れませんように
お祈り下さい お祈り下さい
喜びの本当の宝である平和のために

「消えた男」(ロベール・デスノス)
サン・マルタン通りはもう好きじゃない
アンドレ・プラタールがいなくなったから。
サン・マルタン通りはもう好きじゃない
ワインももう好きじゃない。

サン・マルタン通りはもう好きじゃない
アンドレ・プラタールがいなくなったから。
あいつは友人で相棒、
僕らは部屋もパンも分け合った。
サン・マルタン通りはもう好きじゃない。

あいつは友人で相棒、
ある朝あいつは消えた、
彼らがあいつを連れていった、それだけしかわからない。
誰もあいつをサン・マルタン通りで見なくなった。

聖者たちに哀願するには及ばない、
聖メリ、ジャック、ジェルヴェ、マルタン、
丘に隠れるヴァレリアンにもどうしようもない。
時は過ぎ、誰にも何もわからない。
アンドレ・プラタールはサン・マルタン通りからいなくなった。

「最後の詩」(ロベール・デスノス)
私はそれほどお前を夢に見た、
それほど歩き、それほど話し、
それほどおまえの影を愛した、
私の中にお前の事が何も残らないほど。
私に残されているのは影の中の影であること
百倍暗い影であること
幾度と戻り来る影であること
  陽に照らされたお前の生命の中で

*エレジー
 1957年9月1日、わずか36歳の若さで交通事故により突然この世を去った英国の天才的なホルン奏者、デニス・ブレイン。彼と旧知の仲であったプーランクは、この悲報を受けたショックの大きさを自らの胸のうちに収めることが出来なかったのでしょう。直ちに「エレジー」の筆を執り始め、その感情を露わにしています。この作品では、彼が作曲した他の多くの管楽器のための作品群に見せるお洒落な雰囲気は封印され、希薄な調性感と悲劇性が全曲を支配しています。突然もたらされた友人の訃報に呆然と立ちつくし、混乱し、悲しみにくれ、そして祈りを捧げるプーランクの内面が、生々しく描写されているかのようです。(大森)

*ロカマドゥールの黒衣の聖母への連祷/ アヴェ・ヴェルム・コルプス/ オペラ「カルメル派修道女の対話」より
 生粋のパリッ子プーランクの作品に見られる重要な一ジャンルは、宗教的作品である。彼はもともと父からカトリック信者として教育を受けた(それに対し、母は宗教に全く無頓着であったのも興味深い)ため、評論家クロード・ロスタンは彼を「双面のヤヌス神」と形容したが、その表現は彼の音楽にもふさわしいように思える。彼の宗教的作品はオーケストラ付きの大編成のものからアカペラの児童合唱までと幅広いが、印象的な和音、清潔感と情熱に満ちている。しかもそれは、父の死後信仰は薄れていたものの、プーランクにとって祈るということが特別なことではなかったように、決して大げさで悲愴的ではない。本日はその中から友人の突然の事故死にインスピレーションを受けた最初の宗教作品「ロカマドゥールの黒衣の聖母への連祷」と児童三部合唱のための「アヴェ・ヴェルム・コルプス」を紹介する。さらに、「カルメル派修道女の対話」はオペラであるが、この作品中にも宗教合唱曲として扱えうる祈りの場面があり、本日は4場面を取り出して紹介する。聞きどころは全てアカペラで演奏するところ。声だけの純粋で素朴な演奏でプーランクの魅力に挑戦する。(渡辺)

「ロカマドゥールの黒衣の聖母への連祷」
主よ われらを憐れみたまえ
聖処女マリアよ われらのために祈りたまえ
聖マルシアが聖地として聖祭を行った聖堂の女王、
聖ルイが跪きフランスの幸福を願った女王、
勇者ロランが剣を捧げた女王よ。
聖母マリアよ 巡礼に格別の恵みをお授けになり
今も昔も万人が訪れる 聖母マリアよ
われらのために祈りたまえ

「アヴェ・ヴェルム・コルプス」
処女マリアからお生まれになられた
愛しい真の御身は
全ての人の身代わりとして十字架に付けられ
犠牲になられた。

オペラ「カルメル派修道女の対話」より
・二幕一場
その方はラザロの墓より復活されました。
主よ、その方に安息と慈悲の御心をお与えください。
その方は生きる人と死せる人とを、
そして炎を持って永久の時をお裁きになるために来られたのです。

・二幕二場
いとしきマリアさま
あなたは優しさに満ちあふれ、主はあなたとともにおられます。
女性としてあなたを褒め称えましょう。
そしてあなたがイエス様をみごもられたことを喜びましょう。
聖なるマリアさま、聖なるマリアさま。マリアさま、
 どうぞ私たちのことを見守ってください。
この世で罪深きわたしたちのことを。
 限りある命の私たちのことを。アーメン。

・二幕四場
処女マリアからお生まれになられた
愛しい真の御身は
全ての人の身代わりとして十字架に付けられ
犠牲になられた。
その身を突き刺されたくさんの血が滴り
死ぬことの重みを私たちに身をもってお示しになられた。

・三幕四場
めでたし女王、慈悲深き御母、
私たちの命、喜び、希望よ、なんとめでたいことでしょう。
あなたに向かい、私達は声を上げるのです。
追放されたエヴァの子らは。
この涙の谷で、歎き、泣きながら、私達はあなたを仰ぎ見るのです。
ゆえに今、私達の弁護者、あなたの慈悲深き目を、
私達にお向けください。
そしてあなたの胎内の祝福された御子イエスを。
この追放の果てに、私達にお示しください。
おお、いつくしみ深き、敬虔なる、恵みに満てる乙女マリアよ!

栄光は、父なる主に
そして死からよみがえられた
慰め主キリストに、
永遠に。


*出演

川北祥子 かわきたさちこ ピアノ
東京芸術大学音楽学部卒業、同大学院修士過程修了、同非常勤講師(伴奏)を経て、現在フリーのアンサンブル奏者として活動。第31回日演連推薦新人演奏会演奏連盟賞、NHKFM土曜リサイタル出演、第5回日本声楽コンクール共演者賞。

藪内俊弥 やぶうちとしや バリトン
東京芸術大学音楽学部を経て、同大学院修士過程修了。多田羅迪夫、吉江忠男各氏に師事。第12回日仏音楽コンクール第2位入賞。オペラや宗教曲のソリストとして活動。また、歌曲のリサイタルなども行なっている。

大森啓史 おおもりけいじ ホルン
東京芸術大学音楽学部を経て、同大学大学院を修了。ホルンを守山光三、松崎裕の両氏に師事。1995年、第10回練馬文化センター新人演奏会オーディションにて優秀賞受賞。同年より(財)ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉に入団。1998年、シカゴへ留学し、デール・クレヴェンジャー氏に師事した。現在(財)ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉ホルン奏者、 エマーノン・ブラス・クインテットおよびル・ヴァン・ドゥ木管五重奏団メンバー。

渡辺有里香 わたなべゆりか ソプラノ
慶應義塾大学文学部独文科卒業。東京芸術大学音楽学部声楽科卒業、同大学院修士課程修了。沢田文彦、三林輝夫の各氏に師事。東京芸大卒業演奏会出演。小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」「ドン・ジョヴァンニ」に参加。「戴冠ミサ」等宗教曲・合唱曲のソリスト、フランス歌曲やバロックを中心としたコンサート、新曲の初演など、ソリストとしても多岐に渡った演奏活動を行っている。

辻村倫子 つじむらみちこ ソプラノ
東京芸術大学音楽学部声楽科卒業。これまで村上絢子、故伊藤亘行、嶺貞子の各氏に師事。横浜音楽協会主催第71回新人オーディション合格。同新人演奏会に出演。ドイツ歌曲のプログラムによるジョイントコンサートを4回開催。声楽アンサンブルVox humana(ヴォクスマーナ)のメンバーとして若手作曲家への委嘱作品を含む20世紀以降の現代曲を中心とした演奏活動を展開。東京芸術大学声楽科非常勤助手。

矢ヶ部直子 やかべなおこ メゾソプラノ
東京都出身。都立府中西高校を経て東京芸術大学音楽学部声楽科卒業。声楽を鈴木寛一、仁田ちさ各氏に師事。現在ソロを中心に活動。声楽アンサンブルVox humana(ヴォクスマーナ)所属。

「六重奏曲」と「仮面舞踏会」2002-08-08

Série Poulenc ~ à Mickey プーランクシリーズ 3
於:日暮里サニーホールコンサートサロン

*曲目

Francis Poulenc (1899-1963) / Max Jacob (1876-1944)
フランシス・プーランク / マックス・ジャコブ:

Sextuor (1932)
ピアノと木管五重奏のための六重奏曲
  1.Allegro vivace
  2.Divertissement
  3.Finale
(川北祥子 pf 斎藤和志 fl 福井貴子 ob 大成雅志 cl 井上直哉 fg
 大森啓史 hr)

Cinq Poèmes de Max Jacob (1931)
マックス・ジャコブの5つの詩
  1.Chanson bretonne ブルターニュの歌
  2.Cimetière お墓
  3.La petite servante 小さな女中
  4.Berceuse 子守唄
  5.Souric et Mouric スリックとムリック
(渡辺有里香 sop 川北祥子 pf)

Parisiana (1954)
パリ百景
  1.Jouer du bugle ビューグルを吹く
  2.Vous n'écrivez plus? もう書かないの?
(渡辺有里香 sop 川北祥子 pf)

Cinq Poèmes de Max Jacob (1920)
マックス・ジャコブの4つの詩
  1.Est-il un coin plus solitaire もっと一人になれる場所だろうか
  2.C'est pour aller au bal 踊りに行くために
  3.Poète et ténor 詩人とテノール
  4.Dans le buisson de mimosa ミモザの茂みの中に
(渡辺有里香 sop 斎藤和志 fl 福井貴子 ob 大成雅志 cl 井上直哉 fg 佐藤友紀 trp)

Le Bal Masqué - Cantate profane (1932)
世俗カンタータ「仮面舞踏会」
  1.Préambule et Air de Bravoure 前置きと一節
  2.Intermède 幕間
  3.Malvina マルヴィナ
  4.Bagatelle バガテル
  5.La dame aveugle 盲目の夫人
  6.Finale フィナーレ
(薮内俊弥 bar 福井貴子 ob 大成雅志 cl 井上直哉 fg 佐藤友紀 trp 戸澤哲夫 vn 白神あき絵 vc 村本寛太郎 perc 川北祥子 pf)


*解説

 同属楽器のアンサンブルである弦楽四重奏や金管五重奏と違い、一口に「木管」と言っても実は異なった発音原理の楽器が入り交じる、異種格闘技的な木管五重奏。そんなアンサンブル団体が、さらにピアノまで仲間に加えてしまえ!となった時に必ず、と言って良いほど演奏されるのがプーランクの六重奏曲なのです。一見ごった煮、だけど不思議と響き合うその編成に相応しく、彼はこの多彩な表情を持つ、エキサイティングな作品を残してくれました。しばしば指摘される構成力の弱さなんて気にしちゃ損です。管楽器をこよなく愛したプーランクらしく、各々の楽器の魅力を120%引き出したらこうなっちゃった、という作品なんですから!<大森啓史>

 マックス・ジャコブの詩によるプーランクの歌曲を一日にしてこの極東の地で演奏してしまうとは、全く不思議なことだ(この演奏会ではほぼ毎回が不思議、ということになってしまうのだが…)。しかも自ら破り棄て(草稿がミヨーによって保存されていたため演奏可能となっ)た「4つの詩」と、最も良くできた歌曲集だと自負しているのにあまり演奏されないとぼやく「5つの詩」を同時に演奏するとはプーランク本人も複雑な気持ちであろう。「4つの詩」はまだまだ先人の作品に憧れを抱いていた22才の頃書かれている。その筋の人が見るとシェーンベルク、ストラヴィンスキーの影響がはっきりと表れているのだそうだ。「5つの詩」はプーランクが一番歌曲作曲に没頭した時期の、とても彼らしい作品だ。詩は『スコットランド語を話す若い娘の詩』で、かわいらしく、けれどお里の知れるようなところもある表情豊かな曲となっている。晩年の「パリ百景」は、お得意のパリっ子本性が丸見えのバランスの良い2曲だ。ついでに歌曲の題名も自分で付けてしまった。ある意味で満遍ない3つの歌曲集です。<渡辺有里香>

 プーランクの解説なんて、僕にはとうていできませんが、プーランクの曲は、言葉では言い表せない魅力があると思います。今回僕が歌う『仮面舞踏会』は、演奏者も、聴衆の方も、休む間もなく、何秒ごとかに、その魅力に出会っていきます。「あぁ、いいフレーズだなぁ」と聞いている間に、予想もできないようなオーケストラの和音が鳴ったり、歌が入ったり…でもその予想もできないような音が、決して不快につながることがなく、むしろ快感に思えてくる、そんな曲だと思います。全部で6曲からなるこの『仮面舞踏会』ですが、絶え間なく襲い続ける音、フレーズの波に身をまかせて、快感にひたっていただけると嬉しいです。<藪内俊弥>


*歌詞大意

「マックス・ジャコブの5つの詩」

* ブルターニュの歌

あたしのめんどりがいなくなった
猫もいなくなった
あたしは土ぼこりをたてて駆け回る
神様が返してくれるなら

ジャン・ル・コズや
マリ・マリアのところへ行くと
「エロデさんとこへ行ってみな
知っているに違いない」

公会堂の前を通ると
町中の人がそこにいた
あたしのめんどりと子猫が
踊るのを見に

田舎の鳥たちは
塀や屋根の上で
王様の宴会のために
らっぱを吹いていた

* お墓

もしあたしの水兵さんを追い払うなら
お墓にあたしを埋めてちょうだい
白ばら、白ばらと紅ばら
あたしのお墓はお庭みたい
紅と白のお庭みたい
日曜にはみんなやってくる
白ばら
お散歩をしに
白ばらと白すずらん
イヴォンヌおばさんは万聖節に
色づけされた鉄の冠を
自分ちのお庭から着けてくる
サテンで出来た飾り玉の付いた冠を
紅ばらと白すずらん
もし神様があたしが目覚めるのをお望みなら
あたしは天国に昇るの、白ばら
金色の光りの輪をつけて
白ばらと白すずらん
もしあたしの水兵さんが戻ってきたら
紅ばらと白ばら
あたしのお墓に来るでしょう
白ばらと白すずらん
あたしたちが子供だった頃を思い出して、白ばら
波止場で遊んでいた頃を
白ばらと白すずらん

* 小さな女中

火事と雷からわれらをお守りください
雷は鳥のように駆け回ります
もしそれが神様の御業なら
災いに祝福を
もし悪魔の仕業なら
ここからすぐに追い払ってください

ヒフ病とオデキからわれらをお守りください
ペストやライ病からも
もしあたしをこらしめるためなら
神よ感謝して受け入れます
もし悪魔の仕業なら
ここからすぐに追い払ってください

のどの腫れよ、内臓から出ていってください
首から、頭から出ていってください
サン・テルムの火、サン・ギュイの踊り
もしそれらが悪魔の仕業なら
ここからすぐに追い払ってください

あたしを早く大人にしてください
そして良い夫を授けてください
あまり酔っ払わず
あたしを毎晩叩いたりしない人を

* 子守唄

おまえの父さんはミサへ
母さんはキャバレーへ
今度泣いたら
お尻を叩くよ

あたしの母さんは貧しかった
オ―レの地で
あたしはクレープを焼く
おまえを足で揺すりながら

もしおまえが泣き過ぎで死んだら
ハラ痛か下痢で死んだら
鼻の上にできた
かさぶたで死んだら

あたしは小エビを取りに行こう
干潮の時に
お頭入りのスープを作るのさ
鈎針なんかいらないよ

* スリックとムリック

スリックとムリックは
白ネズミと黒ハツカネズミ
洋服ダンスの中にやってきた
クモに教えてやるために
美しいクモの巣を
はた織り機で織る方法を
それをパリやカンペールに送ったら
よく売れるぞ!
お金を取っておいて牧場を買おう
季節に実るリンゴの木と
立派な3頭の雌牛と
種付け牛が1頭いるのさ
歌え アマガエルたち
夜がやってくるから
夜にはおまえたちの声がよく聞こえる
ヒキガエルにアオガエル
きいてごらん あたしのつぐみの鳴き声も
おしゃべりなカササギの声も
きいてごらん 一日中
歌の勉強になるよ

「パリ百景」

* ビューグルを吹く

夜遅くまで浴室で
ビューグルを吹く3人の女
先生のために朝っぱらだけ
下品な姿

金髪のこどもはカニを持って
手にカニを持って
何にも話さない
それは不義の息子

このハゲたこどもに3人の母親
たったひとりで十分だった
父親は金持ち 心は貧しい
その子を犬のように扱う

ミューズの心 おまえは私をめくらにする
ビューグルを吹いているのは私だ
イエナの橋で日曜に
袖にワッペンを付けて

* もう書かないの?

僕が新聞売りだと知っていたか
バルベス通りや地下鉄で
学士院へ行こうとしても
徳が不足してる
僕の小説は評価もされず金にもならず
おまけに自分には根性もない

僕が栗売りだと知っていたか
コキエール通りの街角で
渡されたエプロンは裏が緑だ

僕がチケット売りだと知っていたか
トイレの掃除夫だと
嫌味も悪意もなく言うけれど
パンデピスの見本市でも手伝うし
調停判事の支持者にもなるし
いわゆる国の手先の将校にでも
リシュリュー通りやラ・ペー通りの

「マックス・ジャコブの4つの詩」

* もっと一人になれる場所だろうか

もっと一人になれる場所だろうか
私が馬に乗って捜すのは
多くの男たちが修道院にいる
多くの女たちが市場へいく
うちの見晴し台にはたくさんの本
フックにはたくさんの服
棚は紙だらけ
食料棚には肉ばかり
おお! ナルシス おお 狂気よ
二つの手の中にある私の頭よ
おお ペルシャよ! おお かわいらしいバラの国よ
もしおまえがあそこにいないのなら
明日おまえに会いにいったのに

* 踊りに行くために

踊りに行くために
バイカル湖よ アラーよ
バラライカに合わせて
暴君の停泊地 オリエントの地
前を向く男爵 長ぜりふ
マズルカを踊る女を青色と名づけよ
それはまさにトルコの踊り 遊牧民の
船上の舞踏会か 長靴で飲むのか
フォックストロットに合わせて歌う
早足するアザラシ
偽の黒人は音を間違い
小さな群よ
サメのところへ行け
アルルカンは何をする
ネズミになって行け 珍しくもないゼッキーノ金貨
たまの食事
パレード
踊りに行くために
バイカル湖よ アラーよ
バラライカに合わせて

* 詩人とテノール

詩人とテノール
北の王旗
私は死を歌う

詩人と鼓手
コリウール生まれの
私は愛を歌う

詩人と水兵
ワインを注げ
もっと注げ
藻の秘密を教えよう

詩人とキリスト信者
キリストは私の幸せ
もう何も言わない

* ミモザの茂みの中に

ミモザの茂みの中に
何がいる 何がいる
目をスイバに入れる勇気のない
トカゲがいる
キンポウゲと呼ばれる花
オジギソウの苗
それは明け方開き始め
オリーブの形になるという
そこにはオルタンスと
空のアジサイの青い玉
それにほほえむ雑草の銀に輝く群れ
ミモザの茂みの中に
何がいる 何がいる
小間物屋の息子と炭屋の娘

「仮面舞踏会」

* 前置きと一節

ドフィヌ夫人は
せっかく作られた美しい映画「鼻の詩」を見ないだろう
なぜなら皆が仕向けたのだ
埋葬されたナンテールで生まれた最初の子供と

支那の農民は ニュースを求めて
印刷屋へ お隣へ
支那の農民は皆 機会をうかがい
編み上げ靴を履くため 足を切る

アルトワ伯爵は屋根に登り ツケの計算
望遠鏡で月が指より大きいと確かめる
汽船と積み荷は 家に座礁
ガチョウの脂肪を盗もう 大砲を作るため

* マルヴィナ

きっとびっくりするだろう
マルヴィナ嬢は
死んでも扇を離さない
パールの手袋は黄金に光る
彼女はジプシ-のワルツのように身をよじり
恋に死ぬため
君の家の玄関のステッキ立ての所へ向かう
死んだのは糖尿病のため
首を傾けるほどつけ過ぎた香水のため
おお正直な生き物、貞節で少しバカで
食通というより大食いで鈍く
免状を持ちクラスを受け持つ
言い寄ったのは帽子をかぶった男
しかし口説き方は不躾
マルヴィナ、おお亡霊よ、神の御加護を!

* 盲目の夫人

目から血を流す盲目の夫人、言葉を選ぶ
不幸を他人に話さない
髪は苔のよう
宝石と赤い石を身につけて

目から血を流す太った盲目の夫人
余白だらけの丁寧な手紙を書く
ビロードの服のひだに気を配り
他にも何かしようとする

私が彼女の義理の兄弟の事にふれないのは
その若い男の評判が悪いから
なぜなら酔って盲人を酔わせ
笑い、笑ってそしてわめくのだ
ああ!盲目の夫人!

* フィナーレ

身体の動かない古自動車の修理工
ああ、隠者は自分の巣を取り戻した
パリには年をとりすぎたこの鬚
君の家の角で足がもつれる
私の格子のチョッキはエトルリア風で 栗色の帽子は服に合わないらしい
私の玄関には誰かが立てた看板
通告!この家は死んだ山羊の皮の匂い
身体の動かない古自動車の修理工
ああ、隠者は自分の巣を取り戻した
巣、巣、巣、巣!


*出演

斎藤和志 さいとうかずし フルート
東京芸術大学附属高校を経て、東京芸術大学器楽科卒業。同大学院修了。第5回神戸国際フルートコンクール第4位。第70回日本音楽コンクール第1位。第4回日本フルートコンクール第1位。また第68回日本音楽コンクール作曲部門本選における演奏に対して審査員特別賞受賞。P.マイゼン、金昌国、佐久間由美子、中川昌巳、中野富雄、三上明子、山崎成美の各氏に師事。現在、東京芸術大学管弦楽研究部に所属、東京芸術大学附属高校、洗足学園大学非常勤講師。東京シンフォニエッタメンバー。

福井貴子 ふくいたかこ オーボエ
91年かながわ音楽コンクール管楽器部門総合第1位、神奈川フィルと共演。95年武蔵野音大管弦楽団と共演。96年武蔵野音大器楽学科卒業、読売新人演奏会、武蔵野音大新人演奏会等出演、第13回日本管打楽器コンクール第三位。96~97年桐朋学園大学嘱託演奏員。97年渡独、98~00年ライン・ドイツオペラ・デュイスブルグ歌劇場管弦楽団契約団員、00~01年ブレーメン州立歌劇場管弦楽団契約団員、02年ハンブルグ芸術大学卒業、帰国。オーボエを湊貞男、吉成行蔵、小林裕、ライナー・ヘルヴィヒの各氏に師事。

大成雅志 おおなりまさし クラリネット
京都市堀川高校音楽科卒業。東京芸術大学音楽学部中退。第68回日本音楽コンクールクラリネット部門入選。現在、オーケストラ、室内楽を中心に活動する他、水戸室内管弦楽団、小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト等に参加。最近はスタジオワークも多く、NHK朝の連ドラ「ほんまもん」、TBS「恋を何年休んでいますか」、中森明菜の最新アルバム等の録音にも参加。

井上直哉 いのうえなおや ファゴット
埼玉県出身。1971年生まれ。ファゴットを大兼久潔、霧生吉秀、室内楽を山本正治、小畑善昭の各氏に師事。90年北九州芸術祭新人演奏会、96年浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァル新人演奏会に出演。1995年東京藝術大学卒業。現在フリー。

大森啓史 おおもりけいじ ホルン
東京芸術大学音楽学部を経て、同大学大学院を修了。ホルンを守山光三、松崎裕の両氏に師事。1995年、第10回練馬文化センター新人演奏会オーディションにて優秀賞受賞。同年より(財)ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉に入団。1998年、シカゴへ留学し、デール・クレヴェンジャー氏に師事した。現在(財)ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉ホルン奏者、 エマーノン・ブラス・クインテットおよびル・ヴァン・ドゥ木管五重奏団メンバー。

川北祥子 かわきたさちこ ピアノ
東京芸術大学音楽学部卒業、同大学大学院修士過程修了、同非常勤講師(伴奏)を経て、現在フリーのアンサンブル奏者として活動。第31回日演連推薦新人演奏会演奏連盟賞、NHKFM土曜リサイタル出演、第5回日本声楽コンクール共演者賞。

渡辺有里香 わたなべゆりか ソプラノ
慶應義塾大学文学部独文科卒業。東京芸術大学音楽学部声楽科卒業、同大学院修士課程修了。沢田文彦、三林輝夫の各氏に師事。東京芸大卒業演奏会出演。小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」「ドン・ジョヴァンニ」に合唱として参加。「戴冠ミサ」等宗教曲・合唱曲のソリスト、フランス歌曲やバロックを中心としたコンサート、新曲の初演など、ソリストとしても多岐に渡った演奏活動を行っている。

佐藤友紀 さとうとものり トランペット
1977年生まれ。東京芸術大学卒業。アカンサス音楽賞受賞。99年、第16回日本管打楽器コンクール第1位。00年、読売新聞社主催新人演奏会に出演。小澤征爾音楽塾オペラプロジュクトに参加。PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティヴァル)に参加。第69回日本音楽コンクール第2位入賞。02年、リエクサ国際ライモ・サルマス・トランペットコンクールファイナリスト。現在、シエナ・ウィンド・オーケストラ楽団員。東京藝術大学管弦楽研究部非常勤講師。東京アトラクティヴブラス主宰。

藪内俊弥 やぶうちとしや バリトン
東京藝術大学卒業。現在同大学院在学中。吉江忠男、多田羅迪夫各氏に師事。第12回日仏声楽コンクール第2位入賞。第51回朝日新聞社主催「芸大メサイア」のソリストを務める。昨年芸大大学院オペラ「ドン・ジョヴァンニ」にマゼット役で出演。また今年東京室内歌劇場100回記念公演サリエリ「ファルスタッフ」にスレンダー役で出演。

戸澤哲夫 とざわてつお ヴァイオリン
1971年生まれ。保井頌子氏の手ほどきにより、6歳よりヴァイオリンを始める。その後東京芸術大学を経て、97年同大学院修士課程を修了。芸大大学院在学中の95年1月より、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団コンサートマスターに就任し、現在においてまでその重責を果たしてきている。96年から安田弦楽四重奏団のメンバーとなり、自らもアルベリ弦楽四重奏団などを主宰し、ソリストとしても、東京シティ・フィル、新星日本交響楽団、広島交響楽団の他、各地のオーケストラと協演するなど活動は多方面に渡っている。98年11月より1年間、アフィニス文化財団の海外研修員としてベルリンに留学、ライナー・クスマウル氏のもとで研鑽を積む。2001年、ショスタコーヴィッチ全曲演奏などで話題のモルゴーア・カルテットに加わる。

白神あき絵 しらかみあきえ チェロ
東京芸術大学音楽学部器楽科卒業。 在学中に室内楽で芸大室内楽定期、木曜コンサート等に出演。市川文化会館主催、新人演奏会に於いて部門最優秀を受賞。同会館でのユネスコ音楽祭、ローズコンサートに出演する。現在(財)ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉に所属する傍らソロ・室内楽でも活動中。今までにチェロを伊藤耕司、三木敬之、金木博幸の各氏に、室内楽を岡山潔、植田克己、本荘玲子の各氏に師事。

村本寛太郎 むらもとかんたろう パーカッション
埼玉県出身。4歳からエレクトーンを、14歳から打楽器をはじめる。これまでにエレクトーンを三原ひろみ、武藤郁夫の各氏に、打楽器を有賀誠門、岩下香緒里、藤井むつ子の各氏に師事。第5回高校生国際芸術コンクール電子オルガン部門第1位受賞。第4回、第5回別府アルゲリッチ音楽祭に打楽器奏者として出演。現在東京藝術大学打楽器科3年在学中。