la chanson la plus charmante ~愛の歌~1998-03-11

いちばん美しい歌は愛の歌(ヴィクトル・ユゴー)

stravinsky ensemble サロンコンサート 7
於:榎坂スタジオ

*曲目

レハール:「ルクセンブルグ伯爵」より
Lehár: "Der Graf von Luxemburg"
  Ich bin verliebt 恋に落ちてしまったのだ
(吉川/男声,fl,cl)

同「パガニーニ」より
"Paganini"
  Se le donne vuoi baciar 女性は恋とキスのために
同「ほほえみの国」より
"Das Land des Lächelns"
  Dein ist mein ganzes Herz 君はわが心のすべて
(高田)

ヴォルフ:恋人に/狩人
Wolf: An die Geliebte / Der Jäger
シューベルト:私の挨拶を
Schubert: Sei mir gegrüsst
(宮本)

モーツァルト:「魔笛」より
Mozart: "Die Zauberflöte"
  Dies Bildnis ist bezaubernd schön 何と美しい絵姿
同「ドン・ジョヴァンニ」より
"Don Giovanni"
  Deh vieni alla finestra 窓辺においで
(斎藤/大成)

デンツァ:妖精の瞳
Denza: Occhi di fata
チマーラ:ストルネッロ
Cimara: Stornello
(高田)

ラヴェル:ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ
Ravel: Don Quichotte à Dulcinée
  1.Chanson romanesque 空想的な歌
  2.Chanson épique 叙事詩ふうの歌
  3.Chanson à boire 酒の歌
(吉川)

ロドリーゴ:ある娘の名によるエール・ド・バレエ
Rodrigo: Air de ballet sur le nom d'une fille
(川北)

同:「四つの愛のマドリガル」より
"4 Madrigales amatorios"
  ¿De dónde venis, amore? 恋はどこから来るの?
  De los álamos vengo, madre ポプラの林へ行って来た
(藤永)

ブラーガ:セレナータ*
Brage: La Serenata
ガスタルドン:禁じられた歌
Gastaldon: Musica proibita
(浦野/*斎藤)

ドビュッシー:愛しあって眠ろう
Debussy: Aimons-nous et dormons
サンサーンス:愛しあおう
Saint-Saëns: imons-nous
プーランク:愛の小径
Poulenc: Les chemins de l'amour
サティ:おまえが欲しい
Satie: Je te veux
(泉)

バーンスタイン:最愛の夫へ
Bernstein: To my dear and loving husband
(藤永/浦野/泉)

同:後奏曲
Nachspiel
(全員)


*出演

泉地香子 ソプラノ
浦野妙子 ソプラノ
大成雅志 クラリネット
川北祥子 ピアノ
斎藤和志 フルート
高田正人 テノール
藤永和美 ソプラノ
宮本益光 バリトン
吉川誠二 バリトン


*解説

レハール:
恋におちてしまったのだ(『ルクセンブルグ伯爵』より)
女性は恋とキスのために(『パガニーニ』より)
君はわが心のすべて(『ほほえみの国』より)

 本日最初にお聴きいただくのは、今年没後50年にあたるフランツ・レハールのオペレッタからの3曲のアリアです。
 <恋におちてしまったのだ>は若いプリマドンナに熱をあげ浮かれている侯爵のアリア。「恋におちてしまった」と16回も繰り返しながら、「自分でもわからない、もう頭までいかれてしまった。心よ長い眠りから覚めよ、この年寄りにもまた恋の季節が巡ってきたのだ!」と歌うオペレッタならではの楽しいアリアですが、ちなみにその後プリマドンナは主役テノールと結ばれます。<女性は恋とキスのために><君はわが心のすべて>の2曲は主役テノールの正統派アリア。「キスするときに気をつけることはただ一つ、恐れないこと。だって唇はキスのためにつくられたのだから。」「私の心のすべては君のものだ。太陽がなければ花が枯れてしまうように、君なしでは僕は生きてゆけない。だから愛していると言っておくれ。」

ヴォルフ:恋人に/狩人
シューベルト:私の挨拶を

 フーゴー・ヴォルフはドイツ歌曲史上において、ブラームスにつづく重要な作曲家と言える。彼は40数年の短い生涯の間に300曲もの歌曲を創造している。その特徴としては、人間のあらゆる局面が、さまざまな手法にて表出されていることにある。また一人の詩人に集中して作曲活動を行うという特徴も見逃せない。今回取り上げた<恋人に>と<狩人>はメーリケの詩によるもので、前者には宇宙的な恍惚感が、また後者には諧謔性が見事織り込まれ、ヴォルフの人間的なもの(今回は愛)に対する着眼の豊かさをうかがうことができる。
 シューベルトの<私の挨拶を>はリュッケルトの詩による。リュッケルトはシューベルト以後の作曲家にとって格好の触発源となったが、シューベルトがこの<私の挨拶を>を含む5曲の作品しか創造していないことは興味深い。創造力豊かな言葉が、直情的な旋律に乗って進行する様は、時代が流れても変わることのない人間の愛の本質をくすぐられるような気がする。ちなみに原題を直訳すると「私から挨拶をされなさい(うけよ)!」となる。この表現は現在ドイツ語において、もはや過去のものであり、文語体のような存在である。ドイツ人恋人をお求めの方はご注意下さい。

モーツァルト:
何と美しい絵姿(『魔笛』より)
窓辺においで(『ドン・ジョヴァンニ』より)

 タミーノのアリアとドン・ジョヴァンニのセレナードを本日はフルートとクラリネットの二重奏で演奏します。この編曲は二百年前から残るもので、蓄音機さえない時代に管楽器二本だけでオペラの名旋律が楽しめたコンパクトさと同時に、シンプルな音に想像をかきたてられる所がまた魅力と言えます。モーツァルトの新作オペラが流行歌であり、貴族達がおかかえの楽団に演奏させて楽しんだ、そんな優雅な時代に思いを馳せるもよし、現代の豪華な演奏を思い描くもよし。お楽しみ下さい。

デンツァ:妖精の瞳
チマーラ:ストルネッロ

 「おお、美しい妖精の瞳、何と不思議なその深く美しい瞳、あなたは私から若い青春の平安を奪っていった。私の捧げた情熱の若い血のかわりにあなたはそれ以上のもの(愛)を与えてくれるでしょうか?」「おまえのバラ色の唇でお前の心の香気である優しい接吻をしてくれ、そして新しい人生の情熱の輝きをこの乾いた心に与えてくれ!」イタリアの愛の歌に説明は不要。

ラヴェル:ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ
1.空想的な歌 2.叙事詩ふうの歌 3.酒の歌

 「風車と戦うドン・キホーテ」を子供の頃絵本などで見たことのある人は多いと思う。風車を巨人と思いこみ戦いを挑む、ドン・キホーテはそんな人である。この曲に出てくるドゥルシネア姫も、彼の想像が創りあげた理想の女性である。純粋で誇り高く空想的で破天荒な彼は、ちょっといきすぎた「Chevalier-dieu」(神のごとき騎士、彼自身がそう言っている)なのだ。
 この3曲はそんな彼をよくあらわしている。第1曲<空想的な歌>は、「もしあなたがそう言うなら...という言葉で始まる4節から成り、それに続けて「地球を停めてみせましょう」「夜の幕を切りさいてみせましょう」「夜空に星をいっぱいちりばめてみせましょう」と豪語し、愛の為には死をもいとわないと主張する。第2曲<叙事詩ふうの歌>では聖ミシェルと聖ジョルジュに向けて、あなた方と見まがうばかりのうつくしい姫に祝福を!と祈る。第3曲<酒の歌>では、酒の力を借りたドン・キホーテにもはや恐い者などなにもない。陽気に彼の「騎士道」をつらぬくのである。

ロドリーゴ:
ある娘の名によるエール・ド・バレエ
恋はどこから来るの?/ポプラの林へ行ってきた

 ロドリーゴは今世紀スペインの作曲家で「アランフェス協奏曲」などのギター曲が代表作とされる一方、ピアノ曲、歌曲の分野でもスペインの民俗性とフランス印象派の影響による独特の世界を築いている。
 <ある娘の名によるエール・ド・バレエ>は新年の贈り物として婚約者に捧げられた小さなピアノ曲で、最初の3小節にのちの夫人でピアニストのビクトリア・カミの名前が読み込まれ、そのモティーフが終始愛情を持って奏される。
 「愛はどこから来るのか教えてちょうだい、私は充分に大人よ」と恋を知らない少女がコケティッシュに陽気に問う<恋はどこから来るの>、「セビリアの風にそよぐポプラの林で恋人に逢って来たよ」と嬉しさいっぱいに母親に打ち明ける<ポプラの林に行って来た>は、16世紀のスペイン古謡を近代和声で再構成した「4つの愛のマドリガル」の第3、4曲。

ブラーガ:セレナータ
ガスタルドン:禁じられた歌

 セレナータとはsera=「夕べ」から、男性が思慕する女性の家の窓辺で敬愛のしるしとして夕暮れに奏する音楽を指すが、この2曲はそのセレナータを聴いた娘の歌。本日の演奏では1曲目のセレナータのメロディーはフルートで奏される。
 <セレナータ>「お母さん、私の目を覚ます優しい歌声が聞こえてくるわ。どこから聞こえてくるのかしら。」「静かにしなさい。私には何も聞こえませんよ。それは幻惑なのですよ。」「でもね、お母さん、私には天使の歌声が聞こえてくるの。楽しげなあのメロディーが私を呼んでいるわ。お母さんおやすみ、私はあの声の方に行きます。」
 <禁じられた歌>夜毎私のバルコニーの下であの美しい青年が愛の歌を繰り返した。おお、あの旋律は何と甘美で美しく私を魅了することか。母は私があの歌を歌うことを禁じるけれど私は私の心を震わせるあの歌を歌いたい。「君の黒い髪と唇と厳しいまなこに口づけしたい。僕の宝よ、君と一緒に死にたい。君の胸に抱き締めて愛の陶酔を私に味わわせてほしい...」

ドビュッシー:愛しあって眠ろう
サンサーンス:愛しあおう
プーランク:愛の小径
サティ:おまえが欲しい

 <愛しあって眠ろう><愛しあおう>はバンヴィルの同一の詩。「愛しあって眠ろう、波も嵐も太陽も風も構いはしない、愛は神々と死よりももっと強いから。二つの花のように愛する二人の唇を合わせ、接吻の中で死を滅ぼしてしまおう。」というまあなんともたいそう大仰な詩に、19歳(!)のドビュッシーと56歳のサンサーンスが何を読み取ったのか。
 <愛の小径><おまえが欲しい>はそれぞれ、プーランクが女優イヴォンヌ・プランタンのために、サティがカフェ・コンセールのために書いた、ほとんどシャンソンといった趣の作品。「愛の小径、私はいつもそれを探しているのです。思い出の中のあなたの声はもう聞こえません。絶望、回想、初めての日、そして素晴らしい愛の小径!」「愛する人よ、私を恋人にして下さい。理性から遠ざかり悲しみを越えて、この愛のひと時に息づきましょう。それこそが私たちの幸せになるでしょう!私はあなたが大好きです!」という詩がともにワルツにのって歌われる。

バーンスタイン:最愛の夫へ/後奏曲

 <最愛の夫へ>「二人は一つとはまさに私達のこと、妻に愛される夫とはまさにあなたのこと、夫と共にいて幸せな妻とはまさに私のこと、誰も私にはかなわない。あなたの愛は何よりも尊く、私の愛は何にも消せない、あなたの愛は何をもっても返せないほどのもの、だから私は天に祈る。生きていく限り私達は愛しあい、死んでからも二人は永遠に生きていくのだ。」アメリカの詩を集めた歌曲集「ソングフェスト」に収められ、詩はアメリカ最初の女流詩人と言われるアン・ブラッドストリート(1650年頃)のもの。
 <後奏曲>は二重唱曲集「アリアとバルカロール」の終曲。自ら詞も多く手がけたバーンスタインが、現代アメリカの結婚生活をテーマとするこの曲集をあえて言葉を用いずに締めくくったことに倣い、本日の演奏会もこの曲を終曲といたします。

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