コクトーのテキストによる作品とクラリネット2002-03-22

Série Poulenc ~ à Mickey プーランクシリーズ 2
於:榎坂スタジオ

*曲目

Francis Poulenc (1899-1963) / Jean Cocteau (1889-1963)
フランシス・プーランク / ジャン・コクトー:

Novelette (1928)
ノヴレット 変ロ短調
(pf. 川北祥子)

Cocardes (1919)
リボンの飾り
  1.Miel de Narbonne ナルボンヌの蜂蜜
  2.Bonne d'enfant 子守りさん
  3.Enfant de troupe 兵隊さんの子分
(sop. 渡辺有里香 pf. 川北祥子)

La dame de Monte-Carlo - monologue pour soprano (1961)
モンテカルロの女
(sop. 渡海千津子 pf. 川北祥子)

Sonate pour clarinette et piano (1962)
クラリネットとピアノのためのソナタ
1.Allegro tristamente
2.Romanza
3.Allegro con fuoco
(cl. 大成雅志 pf. 川北祥子)

La voix humaine - tragédie lyrique en un acte (1958)
人間の声 より
(sop. 安陪恵美子 pf. 川北祥子)

encore:トレアドール (1918/32)
(sop. 渡辺有里香 渡海千津子 安陪恵美子 cl. 大成雅志
 pf. 川北祥子)


*解説

 プーランクの音楽とは、平凡社音楽大事典によれば「ロマン派音楽から解放された真のフランス的伝統に立脚した音楽の創造をめざした」「洗練された感性と軽妙な機知とユーモアにあふれ、みずみずしい詩的情緒みなぎる作品」「(晩年の作品には)宗教的感情や崇高さが加わり深い独自の境地」。でも、彼の音楽を聴くのにそんなものさしはまったく不要。今回はピアノによる1分45秒の馬鹿騒ぎとコクトーのこの言葉で演奏会を開幕したいと思います。~「心を使ってごらん。」<川北祥子>

 前回、プーランクの歌曲について「詩の内容はさることながら、詩人によっても曲の趣が異なる」と紹介したが、今回のコクトーもまた特徴的な曲となっている。「リボンの飾り」は詩がしりとり・連想ゲームのようになっていて、前の言葉と後ろの言葉が韻を踏むように同じ音で括られたり、連想される言葉の連続であったりする。字面の意味を追うだけでは全く何のことやらわからない。しかし、言葉を景色に替えていくと詩がぱっと広がって行くのが分かる。それはプーランクによって更に鮮やかな色彩や動きとなり、いよいよ点が空間へと膨らむ。(本来はヴァイオリン・コルネット・トロンボーン・大太鼓/トライアングルのアンサンブル)<渡辺有里香>

 モンテカルロ!・・・それはコクトーにとってもプーランクにとっても、心躍る若き日の思い出のキーワードでした。プーランクがその晩年、静養先のモナコで偶然見つけたこのテクストは、たちまち彼の心を20代の“馬鹿騒ぎの記憶”へと引き戻したようです。そしてコクトーもまた、同じ思い出を胸にこのモノローグを書いていたのでした。プーランクはこの思いがけず手にした贈り物に、楽しみながら一気に曲を書き上げたといいます。およそ7分の間にくるくると変わる女の気分を描く彼の筆先は、直前二本のオペラで流した涙の分だけ生き生きと、凝縮した形で効果的に運ばれています。どんな女の物語ですって?ま、少なくとも私とは正反対の女・・・今のところは、ね。<渡海千津子>

 今夜唯一の管楽器の作品をお聴き頂きましょう。この曲は生前親交の有った作曲家オネゲルとの思い出に捧げられたもので、何とプーランク最後の作品であります。参考までに言いますと、今年でこのソナタが書かれてちょうど40年(1962作)。全体を通じて悲しげな雰囲気が満ちており最晩年の作品に相応しい格調の高さに溢れている気が。更についでに言いますと、クラリネットの曲を書くと亡くなる作曲家が多いって言われています。モーツァルト、ブラームス、サンサーンス、そしてプーランク・・・。お客様の中で、どなたかその関係について研究して下さる方いませんか?<大成雅志>

 叙情的悲劇「人間の声」は、ジャン・コクトーの戯曲にもとづき、1958年に作曲されたオペラで、全一幕約40分の間、主人公の女性がただ一人電話で話し続ける、大変現代的な一人芝居です。数日前に恋人から別れ話をされた女性と、こともあろうに、明日、別の女性と結婚してしまうその恋人との最後の電話が物語になっており、女性が電話に向かって、切々と「虚言」を言い、最後には電話線を首に巻いてしまう・・・。といったちょっと怖い?ストーリーです。今回は3つの場面を抜粋して演奏致します。<安陪恵美子>


*歌詞大意

「リボンの飾り」

* ナルボンヌの蜂蜜

心を使ってごらん。
 道化師たちが黄金のフンから花と咲く。
眠ること! 一蹴りすれば飛べる。
「おらと遊んどくれ」
モアブ人、青十字の女性。キャラバン。
バニラ、ペッパー。タマリンドのジャム。
船乗り、襟、飾り房、口ひげ、マンドリン。
リノリウムのだまし絵。ありがとう。
映画、斬新な詩よ。

* 子守りさん

テクラ、我々の黄金時代よ。
 パイプ、カルノー、ジョフル。
私はすべての頭痛持ちに申し出る、、、
キリン。結婚式。ギュスターヴの挨拶。
グノーのアヴェ・マリア、つつましい乙女、
市長の歌、旅行クラブ、蓄音機。
はり紙、生彩のある犯罪。機械じかけのピアノ、
ニック・カーター、ひどい話だ!
自由、平等、友愛。

* 兵隊さんの子分

コルネット一本の曲、ポルカ。
ソフトキャラメル、すっぱいキャンディー、はっかのあめ玉。
幕間。木靴の匂い。
太鼓たたきに殺されたサテンの美しい獲物。
ハンブルク、小ジョッキ、木いちごのシロップ
自らの手を使う鳥刺し。
幕間の寸劇、青い軍服。
空中ブランコが死に香を捧げる。

「モンテカルロの女」

死人たちの中でも一番死人らしいってのに、
まだ生者たちのところを這いずってる
あらゆる事があたしらを締め出し
そのうえさっさと門前払い
もう若くもなく愛されもしない女…
閉まったドアの後ろで、
残る道は水にドブンか
ハジキを買うばかり。
そう、だんな方、これが
臆病者やろくでなしどもの末路さ。
だけど、もしもそんなことにびびって
怖さがまといついてたり
血管切るのに怖気づくなら
ともかく、思い切って運を試しに
モンテカルロへ旅してみるか

モンテカルロ、モンテカルロ。
ようやくあたしの一日も終わったよ
眠りたい
地中海の水の底でね

あたしらの魂 売って
もう二度と取り返さないつもりで
アクセサリー質に入れたら、
ルーレットは素敵なオモチャ。
「賭けるわ」って言うの、イカすでしょ。
そいつは頬に火をつけ
それに瞳を輝かせるわ。
キレイな喪のヴェールの下で
あたしら綺麗な未亡人の名を騙ったわ。
爵位は誇りをくれる!
夢中で、支度して、すべてまっさらで、
さあ、いつものカードしにカジノへ乗り込むよ。
あたしの羽根やヴェールをご覧なさい、
モンテカルロへあたしを導く
ぎらぎら光る幸運の星、よくご覧なさいませ。

ツキは女ね。やきもち焼いたのさ
その勿体ぶった未亡人の有様に。
信じたに違いない、
あたしが本物の大佐と結婚してたってね。
あたしは勝ってた、勝ってたんだ12で。
それなのにドレスはほころび、
毛皮のその髪は抜け落ちた。
いくら「今度こそ」と繰り返しても
ツキがあたしらを嫌ったとたん、
心がイライラしたとたん、
ちょっと身動きしたって、
銅貨をテーブルの上に押し出したって、
離れていくツキは
間違いなく数字やカードを変えちまう
モンテカルロのテーブルの。

悪党め、とんまめ、性悪め!
奴らあたしを外につまみ出した…外に…
それに汚いってあたしを非難しやがる、
奴らの広間に不幸をもたらすってさ、
あいつらのきったない漆くいの広間にね。
あたし、トリック教える事だって出来たのに
タダで、王子や、王女にね、
ウエストミンスター公にも、公爵にだって、
そうさ、確かにね。
そんなこともう止しなさい、
奴らあたしにこう叫んでた、お前の仕事は!
お前の仕事だって…!
あたしの発見したこと。
それ、緑のテーブルにはもうあげないよ。
モンテカルロにゃいい気味さ。

モンテカルロ

で、こうして今、あんた方に喋ってるけど、
あたしゃ言わないよ、どれだけ
モンテカルルで身を削ったかなんて
モンテカルル、いやモンテカルロ。
あたしはもう見る影もないね…
倍賭けだ、システムだ、
しかもディーラーたちは権利振りかざし
遠くからあたしらの指を叩くのさ、
ちょいと賭金 失敬しようものなら。
おまけに宿にはツケがあるし
いつだって同じシュミーズ
それも汗でぐしょ濡れの。
奴ら何やってもムダさ。そんなにバカじゃない。
今夜あたしは頭から飛び込むのさ
モンテカルロの海の中にね。
モンテカルロ

「人間の声」

(夜の11時にかかった彼からの電話。彼女は今帰ったところでまだ薔薇色の服を着たままなの、と明るく話し始める。しかし彼女は彼から二日前に別れを告げられたばかりだった。電話が途切れてとり乱した彼女は、再びかかった電話で次第に本心を語り出し、ついには自殺未遂を告白する。そして……)

 もしもし!ああ、あなた!あなたなの?切れたのよ。……いえ、いえ、待っていたの。ベルが鳴って、受話器を取ると誰も出なくて。きっと……きっとそうね……あなた眠いんでしょう?また電話を下さるなんていい人、とてもいい人。いえ、ここにいるわ。え?馬鹿な事よ、許して。何ともないわ。誓って何ともありません。同じことよ。本当に何も。違うわ。これだけは理解して、話してると、話してると……あなた聞いて。私はあなたに嘘をついたことはなかった。ええ、分かってる、分かってる、あなたを信じてるわ、そのことはよく分かってる……いいえ、そうじゃなくて……私はあなたに嘘をついたからなのよ……さっき、電話で、15分前から嘘をついていたの。夕食は食べなかった。薔薇色のドレスではなく、寝間着にコートをはおっているわ。だって、あなたからの電話を待ち続けて、受話器を眺めて、座ったり、立ったり、歩き回っているうちに、気が変になってしまったの!……ここで……何も食べず。何もできなくて、とても気分が悪くて。昨日の晩、眠れるように薬を一つ飲もうとしたの。もっと飲んだらよく眠れるだろうって、もし全部飲んだら夢も見ず目も覚めずに、死んでしまえると思ったわ。薬をお湯で12錠飲んだの、一気に。そして夢を見たの。この通りに。目が覚めたときは夢だったと思ってとても満足だったわ。でもこれは本当のことで、私は独りで、あなたの隣で眠っていたのではないと気づいたら、私はもう生きていられないと感じたの。体が軽く、軽く、冷たくなって、心臓の鼓動も聞こえなくなって、でも死はまだ遠かった、するととても苦しくて、1時間位してマルトに電話したの。独りで死んでいく勇気がなかったのね。あなた……あなた……

 何?ああ!ええ、ずっとよくなったわ。もし電話を下さらなかったら、きっと死んでいたわ。許して。ひどい事だって分かってる、よく辛抱して下さっているわね、でも、私苦しいの、分かって。この電話線が私達を結んでいる最後のものなのよ。おとといの晩?眠ったわ。電話を抱いて寝たのよ……いえ、いいえ。ベッドの中で。ええ。分かってるわ。とても変わっているけれど、でも私はベッドの中に電話を持ち込んだ、どんな事があっても電話は私達をつないでくれるから。なぜって、あなたが話して下さるからよ。この5年間、私はあなたと生きていたの、あなただけが私の空気、私はあなたを待って過ごし、あなたが遅いと死んでしまったのかと思い、そうだったら私も死のうと思い、あなたが帰ったら生き返ったようになり、またあなたが出かけると死ぬほど怖かったわ。今はあなたが話して下さるから、私息ができるの。もちろん、あなた、眠ったわ。眠れたのは、最初の晩だったからよ。最初の晩は眠れるの。耐えられなくなるのは二日目の夜、つまり、昨日の晩、そして三日目、明日、それから来る日も来る日もいったい何をすればいいの?そして……そして眠れたとしても、夢を見て、そして目が覚める、そして何か食べて、起きて、顔を洗い、出かけて、そしてどこへ行けばいいの?だって、いとしいあなた、私にはあなた以外に何もすることがなくなってしまったの。マルトには彼女のきちんとした生活がある。私は独りきり……

 もしもし!もしもし!神様、彼がかけ直してくれますように。神様、彼がかけ直してくれますように。神様、彼がかけ直してくれますように。神様どうか……切れてしまったの。私が話していたのは、もしあなたが優しさから嘘をついて私がそれに気づいても、あなたへの気持ちがもっと愛しくなるだけだということよ。もちろん……馬鹿ね!あなた、愛しいあなた。やらなきゃいけないのはよく分かってる、でも残酷なことだわ。まだ私にはそんな勇気がないの。ええ。向い合っているような気もするけれど、突然地下室や下水道や町全体が私の中に入り込んでくるの。私、電話線を首に巻いているの。あなたの声を首に巻いているの。あなたの声を首のまわりに。電話局が偶然にでも通話を切らなければならないわ。ああ!あなた!どうしてわたしがそんなひどい事を考えているなんて思うの?よく分かってるわ、この事は私よりあなたの方がもっと辛いって……いえ……いいえ……マルセイユに?……聞いて!あなたがあさっての晩マルセイユにいらっしゃるのなら、どうか……できるなら……私達がいつも泊ったあのホテルには泊らないでいただきたいの。怒ってらっしゃらない?……なぜかというと、私の知らない所で起こる事は、想像できない事と同じだし、もし起こったとしてもよく知らない場所での事ならそれほど嫌な思いをすることも少ないわ……分かって下さる?ありがとう……ありがとう。いい方ね。私、愛しているわ!!それじゃあ、ね。いつもの癖で、じゃあまた、って言いかけてしまったわ。それはどうかしら。ああ!その方がいいわ。ずっといいわ。あなた……すてきなあなた。私はしっかりしているわ。早く。さあ。切って!早く切って!愛してるわ、愛してるわ、愛してるわ、愛してるわ……愛してる……


*出演

渡辺有里香 ソプラノ
慶應義塾大学文学部独文科卒業。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、同大学大学院修士課程修了。沢田文彦、三林輝夫の各氏に師事。東京芸大卒業演奏会出演。小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」(モーツァルト)に参加。現在、フランス歌曲を中心としたコンサートや、モーツァルト「戴冠ミサ」等のソリスト、新曲の初演、楽器とのリサイタルなど多岐に渡った演奏活動を行っている。

渡海千津子 ソプラノ
東京音楽大学音楽教育科卒業、東京藝術大学声楽科卒業、同大学院修士課程終了。また昨年9月より渡伊し、ミラノにて研鑽を積む。声楽を川上洋司、田中奈美子、朝倉蒼生、M.レアーレ、L.マルツァガリア、F.アルバネーゼの各氏に師事。また、オペラ演奏解釈をD.マッツォーラ氏に師事。

安陪恵美子 ソプラノ
東京芸術大学声楽科卒業。同大学院オペラ科修了。二期会オペラスタジオ第37期修了。1993年、1994年優秀賞受賞。1992年日本音楽コンクール入選。平成12年度文化庁芸術インターンシップ研修員。サイトウ・キネン・フェスティバル「イエヌーファ」、新国立劇場「魔笛」、二期会オペラ公演「魔笛」、「フィガロの結婚」に出演する他、新日本フィルハーモニー定期「ファウストの情景」ソプラノソロ、都響定期(ジャン・フルネ指揮)「ペレアスとメリザンド」イニョルド役にも出演している。中村浩子氏師事。上野学園短期大学部講師。二期会、コンセールC各会員。

大成雅志 クラリネット
京都市堀川高校音楽科卒業。東京芸術大学音楽学部中退。第68回日本音楽コンクールクラリネット部門入選。現在、オーケストラ、室内楽を中心に活動する他、水戸室内管弦楽団、小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト等に参加。最近はスタジオワークも多く、NHK朝の連ドラ「ほんまもん」、TBS「恋を何年休んでいますか」、中森明菜の最新アルバム等の録音にも参加。クラリネットを海川雅富、内山洋、村井祐児、三界秀実、鈴木豊人、ヴェンツェル・フックス、ペーター・シュミ-ドルの各氏に師事した。アンサンブル・セシード、ミューゼシード室内管弦楽団メンバー。

川北祥子 ピアノ
東京芸術大学卒業、同大学院修了、同非常勤講師(伴奏)を経て、現在フリーのアンサンブル奏者として活動。第31回日演連推薦新人演奏会演奏連盟賞、NHKFM土曜リサイタル出演、第5回日本声楽コンクール共演者賞。

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