モーツァルトとシュタードラーvol.3(カフコンス第18回)2005-06-05

*曲目

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:
Wolfgang Amadeus Mozart (1756-91)

「12の二重奏曲」より
12 Duette K.487(496a) (1786)
  1.Allegro
  2.Menuetto
  4.Polonaise
  7.Adagio
  8.Allegro
  11.Menuetto
  12.Allegro
(クラリネット・ヴィオラ)

「音楽のサイコロ遊び」
Musikalisches Würfelspiel K.anh.516f (1787)
  1.Contredance (4-11-7-4-9-12-5-5-9-9-4-8-5-8-7-7)
  2.Menuett (8-4-10-7-7-7-6-10-10-7-7-5-11-6-8-9)
(ピアノ)(*数字はサイコロの出目)

「ケーゲルシュタット三重奏曲」
"Kegelstatt-Trio" K.498 (1786)
  1.Andante
  2.Menuetto
  3.Rondeaux
(クラリネット・ヴィオラ・ピアノ)

(同「フィガロの結婚 より 手紙の二重唱」)


*出演

大橋裕子(クラリネット)
冨田大輔(ヴィオラ)
川北祥子(ピアノ)


*プログラムコメント

 モーツァルトのクラリネット作品シリーズ「モーツァルトとシュタードラー」では本日から2回にわたり、ウィーン時代のモーツァルトの活動拠点の一つであったジャカン邸(ジャカン家は学者と音楽家の家系でジャカン邸は当時のウィーンの重要な社交場)の関連作品をとりあげる。「三重奏曲k.498」はモーツァルトの弟子でジャカン家の娘のフランツィスカのために書かれ、彼女のクラヴィーア、作曲者自身のヴィオラ、友人で名クラリネット奏者のシュタードラーによって、ジャカン邸の集いで初演された。ケーゲル(九柱戯=9本のピンを使ったボーリングに似たゲーム)に興じながら作曲されたという逸話により、この三重奏は「ケーゲルシュタットトリオ」と呼ばれて親しまれているが、1週間前の作品「二重奏曲k.487」の自筆譜に「ケーゲルをしながら」と明記されていることから、これと混同されたとする説が現在では主流のようである。なおこの二重奏には楽器の指定がないが、ホルン奏者のロイトゲープ(シュタードラーと同じく友人で協奏曲を献呈された名手)とケーゲルをしながら作曲したホルン二重奏である可能性が高いと言われる。サイコロを振って演奏する小節を決める「音楽のサイコロ遊び」もジャカン邸の催しに度々登場した出し物で、このような遊びが当時流行していたそうだ。

祈りと悲歌2005-06-10

Série Poulenc ~ à Mickey プーランクシリーズ 4
於:榎坂スタジオ

*曲目

Francis Poulenc (1899-1963)
フランシス・プーランク:

Mélancolie (1940) メランコリー
(川北祥子 pf )

Priez pour paix (1938) 平和への祈り
Le disparu (1947) 消えた男
Dernier poème (1956) 最後の詩
(藪内俊弥 bar 川北祥子 pf)

Elegie (1957) エレジー
(大森啓史 hr 川北祥子 pf)

Litanies à la Vierge Noir (1936)
 ロカマドゥールの黒衣の聖母への連祷
Ave verum cormus (1952) アヴェヴェルムコルプス
Dialogues des Carmélites (1956) カルメル派修道女の対話 より
  2幕1場 Qui Lazarum
  2幕2場 Ave Maria
  2幕4場 Ave verum corpus *
  3幕4場 Salve Regina
(渡辺有里香 辻村倫子 sop 矢ヶ部直子 mez / * 藪内俊弥 bar)

encore:スターバトマーテル (1950) より
  第8曲 Fac ut ardeat
(渡辺有里香 辻村倫子 sop 矢ヶ部直子 mez)


*解説/歌詞大意

*メランコリー
 「メランコリー」はプーランクの作品の中では駄作に分類される。たしかに百曲以上のピアノ作品の中で単独曲最長(といっても6分なのだが)でありながら素晴しい構成ではないかもしれず、駄作だから「憂鬱」だとまで言われる始末である。しかし作曲背景を考えると、一見穏やかで美しいこの曲がなぜ「憂鬱」なのかが見えてくるように思うのだ。すなわち前年に高射砲隊に従軍したプーランクは1940年に除隊、パリ郊外の自宅へ戻る途中に山間部の田舎の友人の家で夏を過ごした。「祖国のために死んでいく人達から遠い場所」で、彼が清々しさだけを味わってはいられなかった事を、この時書かれた「メランコリー」は物語っているのではないだろうか。(川北)

*平和への祈り/消えた男/最後の詩
 プーランクはインスピレーションを感じた詩のみに曲を書き、選んだ詩は同世代から中世にまでさかのぼり様々です。「平和への祈り」は約500年前の詩ですが、プーランクは第二次大戦間近という状況で新聞に載っていたこの詩を見つけ、時代を超えた率直な平和への願いを重ね合わせました。後の2曲は同世代の詩人デスノスの詩で、「消えた男」は当時ドイツ軍占領下にあったフランスで現実に起こり得る友人の失踪の悲しみや怒りを、そのままぶつける事なくシャンソン風に表現しています。「最後の詩」は、デスノスがチェコの収容所で亡くなった時、煙草の紙に書き遺していた詩に、プーランクが曲をつけ、デスノス夫人のユキに捧げたものです。いずれもプーランクの卓越した感受性が惜しみ無く聞き取れる曲です。(藪内)

「平和への祈り」(シャルル・ドルレアン)
平和のためにお祈り下さい 優しいマリア様
天の女王 世界の女主人である神様
お祈りさせて下さい あなたの御慈悲で
聖者たち聖女たちに あなたの請願で
気高さを求めるあなたの御子に
人々が血で罪をあがなおうとしたのだと
みなして下さいますように
すべてを奪う戦争を否定するために
祈り疲れませんように
お祈り下さい お祈り下さい
喜びの本当の宝である平和のために

「消えた男」(ロベール・デスノス)
サン・マルタン通りはもう好きじゃない
アンドレ・プラタールがいなくなったから。
サン・マルタン通りはもう好きじゃない
ワインももう好きじゃない。

サン・マルタン通りはもう好きじゃない
アンドレ・プラタールがいなくなったから。
あいつは友人で相棒、
僕らは部屋もパンも分け合った。
サン・マルタン通りはもう好きじゃない。

あいつは友人で相棒、
ある朝あいつは消えた、
彼らがあいつを連れていった、それだけしかわからない。
誰もあいつをサン・マルタン通りで見なくなった。

聖者たちに哀願するには及ばない、
聖メリ、ジャック、ジェルヴェ、マルタン、
丘に隠れるヴァレリアンにもどうしようもない。
時は過ぎ、誰にも何もわからない。
アンドレ・プラタールはサン・マルタン通りからいなくなった。

「最後の詩」(ロベール・デスノス)
私はそれほどお前を夢に見た、
それほど歩き、それほど話し、
それほどおまえの影を愛した、
私の中にお前の事が何も残らないほど。
私に残されているのは影の中の影であること
百倍暗い影であること
幾度と戻り来る影であること
  陽に照らされたお前の生命の中で

*エレジー
 1957年9月1日、わずか36歳の若さで交通事故により突然この世を去った英国の天才的なホルン奏者、デニス・ブレイン。彼と旧知の仲であったプーランクは、この悲報を受けたショックの大きさを自らの胸のうちに収めることが出来なかったのでしょう。直ちに「エレジー」の筆を執り始め、その感情を露わにしています。この作品では、彼が作曲した他の多くの管楽器のための作品群に見せるお洒落な雰囲気は封印され、希薄な調性感と悲劇性が全曲を支配しています。突然もたらされた友人の訃報に呆然と立ちつくし、混乱し、悲しみにくれ、そして祈りを捧げるプーランクの内面が、生々しく描写されているかのようです。(大森)

*ロカマドゥールの黒衣の聖母への連祷/ アヴェ・ヴェルム・コルプス/ オペラ「カルメル派修道女の対話」より
 生粋のパリッ子プーランクの作品に見られる重要な一ジャンルは、宗教的作品である。彼はもともと父からカトリック信者として教育を受けた(それに対し、母は宗教に全く無頓着であったのも興味深い)ため、評論家クロード・ロスタンは彼を「双面のヤヌス神」と形容したが、その表現は彼の音楽にもふさわしいように思える。彼の宗教的作品はオーケストラ付きの大編成のものからアカペラの児童合唱までと幅広いが、印象的な和音、清潔感と情熱に満ちている。しかもそれは、父の死後信仰は薄れていたものの、プーランクにとって祈るということが特別なことではなかったように、決して大げさで悲愴的ではない。本日はその中から友人の突然の事故死にインスピレーションを受けた最初の宗教作品「ロカマドゥールの黒衣の聖母への連祷」と児童三部合唱のための「アヴェ・ヴェルム・コルプス」を紹介する。さらに、「カルメル派修道女の対話」はオペラであるが、この作品中にも宗教合唱曲として扱えうる祈りの場面があり、本日は4場面を取り出して紹介する。聞きどころは全てアカペラで演奏するところ。声だけの純粋で素朴な演奏でプーランクの魅力に挑戦する。(渡辺)

「ロカマドゥールの黒衣の聖母への連祷」
主よ われらを憐れみたまえ
聖処女マリアよ われらのために祈りたまえ
聖マルシアが聖地として聖祭を行った聖堂の女王、
聖ルイが跪きフランスの幸福を願った女王、
勇者ロランが剣を捧げた女王よ。
聖母マリアよ 巡礼に格別の恵みをお授けになり
今も昔も万人が訪れる 聖母マリアよ
われらのために祈りたまえ

「アヴェ・ヴェルム・コルプス」
処女マリアからお生まれになられた
愛しい真の御身は
全ての人の身代わりとして十字架に付けられ
犠牲になられた。

オペラ「カルメル派修道女の対話」より
・二幕一場
その方はラザロの墓より復活されました。
主よ、その方に安息と慈悲の御心をお与えください。
その方は生きる人と死せる人とを、
そして炎を持って永久の時をお裁きになるために来られたのです。

・二幕二場
いとしきマリアさま
あなたは優しさに満ちあふれ、主はあなたとともにおられます。
女性としてあなたを褒め称えましょう。
そしてあなたがイエス様をみごもられたことを喜びましょう。
聖なるマリアさま、聖なるマリアさま。マリアさま、
 どうぞ私たちのことを見守ってください。
この世で罪深きわたしたちのことを。
 限りある命の私たちのことを。アーメン。

・二幕四場
処女マリアからお生まれになられた
愛しい真の御身は
全ての人の身代わりとして十字架に付けられ
犠牲になられた。
その身を突き刺されたくさんの血が滴り
死ぬことの重みを私たちに身をもってお示しになられた。

・三幕四場
めでたし女王、慈悲深き御母、
私たちの命、喜び、希望よ、なんとめでたいことでしょう。
あなたに向かい、私達は声を上げるのです。
追放されたエヴァの子らは。
この涙の谷で、歎き、泣きながら、私達はあなたを仰ぎ見るのです。
ゆえに今、私達の弁護者、あなたの慈悲深き目を、
私達にお向けください。
そしてあなたの胎内の祝福された御子イエスを。
この追放の果てに、私達にお示しください。
おお、いつくしみ深き、敬虔なる、恵みに満てる乙女マリアよ!

栄光は、父なる主に
そして死からよみがえられた
慰め主キリストに、
永遠に。


*出演

川北祥子 かわきたさちこ ピアノ
東京芸術大学音楽学部卒業、同大学院修士過程修了、同非常勤講師(伴奏)を経て、現在フリーのアンサンブル奏者として活動。第31回日演連推薦新人演奏会演奏連盟賞、NHKFM土曜リサイタル出演、第5回日本声楽コンクール共演者賞。

藪内俊弥 やぶうちとしや バリトン
東京芸術大学音楽学部を経て、同大学院修士過程修了。多田羅迪夫、吉江忠男各氏に師事。第12回日仏音楽コンクール第2位入賞。オペラや宗教曲のソリストとして活動。また、歌曲のリサイタルなども行なっている。

大森啓史 おおもりけいじ ホルン
東京芸術大学音楽学部を経て、同大学大学院を修了。ホルンを守山光三、松崎裕の両氏に師事。1995年、第10回練馬文化センター新人演奏会オーディションにて優秀賞受賞。同年より(財)ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉に入団。1998年、シカゴへ留学し、デール・クレヴェンジャー氏に師事した。現在(財)ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉ホルン奏者、 エマーノン・ブラス・クインテットおよびル・ヴァン・ドゥ木管五重奏団メンバー。

渡辺有里香 わたなべゆりか ソプラノ
慶應義塾大学文学部独文科卒業。東京芸術大学音楽学部声楽科卒業、同大学院修士課程修了。沢田文彦、三林輝夫の各氏に師事。東京芸大卒業演奏会出演。小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」「ドン・ジョヴァンニ」に参加。「戴冠ミサ」等宗教曲・合唱曲のソリスト、フランス歌曲やバロックを中心としたコンサート、新曲の初演など、ソリストとしても多岐に渡った演奏活動を行っている。

辻村倫子 つじむらみちこ ソプラノ
東京芸術大学音楽学部声楽科卒業。これまで村上絢子、故伊藤亘行、嶺貞子の各氏に師事。横浜音楽協会主催第71回新人オーディション合格。同新人演奏会に出演。ドイツ歌曲のプログラムによるジョイントコンサートを4回開催。声楽アンサンブルVox humana(ヴォクスマーナ)のメンバーとして若手作曲家への委嘱作品を含む20世紀以降の現代曲を中心とした演奏活動を展開。東京芸術大学声楽科非常勤助手。

矢ヶ部直子 やかべなおこ メゾソプラノ
東京都出身。都立府中西高校を経て東京芸術大学音楽学部声楽科卒業。声楽を鈴木寛一、仁田ちさ各氏に師事。現在ソロを中心に活動。声楽アンサンブルVox humana(ヴォクスマーナ)所属。

ストラヴィンスキーアンサンブル2005-06-10

※カフコンス以前の公演記録を旧websiteから移動しました。

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*ストラヴィンスキーアンサンブル とは1990年東京芸術大学の大学院生によって設立された若い演奏家による自主公演プロジェクト。名前の由来はただ単に旗揚げ公演がストラヴィンスキー作品だったという実に単純な命名。あえて言うならば変幻自在にスタイルを変えたストラヴィンスキーのように毎回変化に富んだ活動をしていきたいという願いがこめられている。


* 主催公演歴

カフコンス
 →終了したカフコンス

プーランクシリーズ

第4回 2005/06/10 祈りと悲歌
第3回 2002/08/08 「六重奏曲」と「仮面舞踏会」
第2回 2002/03/22 コクトーのテキストによる作品とクラリネット
第1回 2001/11/12 ヴィルモランのテキストによる作品とフルート

サロンコンサート

第8回 1998/04/17 増補
第7回 1998/03/11 la chanson la plus charmante 愛の歌
第6回 1997/12/27 les songes des oiseaux 鳥の夢(協賛:ハーモニースクエア管理)
第5回 1997/02/26-27 Donizetti!
第4回 1995/04/28-29 BERNSTEIN!
第3回 1994/04/07 サンサーンス/ミヨー四重奏の夕べ
第2回 1994/01/08-09 NEW YEAR OPERA CONCERT
第1回 1991/07/07 木管とピアノによるミヨーのソナタ

公演

第2回 1993/08/26 ラヴェル「子供と魔法」(主催:ストラヴィンスキーアンサンブル・ACC財団法人荒川区地域振興公社 共催:荒川区)
第1回 1990/10/18 平成2年度文化庁芸術祭参加公演 ストラヴィンスキーの夕べ(共催:板橋区・板橋区演奏家協会)

その他

1997/11 「東京ドームであなたの夢かなえます」優秀賞

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