サンサーンス没後100年に寄せて(カフコンス147回)2021-11-07

op.167
op.168
op.169

*曲目

サンサーンス「クラリネットソナタ」*クラリネットとピアノ
Camille Saint-Saëns (1835-1921)
Sonate pour clarinette et piano op.167 (1921)
  1. Allegretto
  2. Allegro animato
  3. Lento
  4. Molto allegro ~ Allegretto

同「ファゴットソナタ」*ファゴットとピアノ
Camille Saint-Saëns
Sonate pour basson et piano op.168 (1921)
  1. Allegretto moderato
  2. Allegro scherzando
  3. Molto adagio ~ Allegro moderato

同「アルバムの一葉」*ピアノ
Camille Saint-Saëns
Feuillet d'album op.169 (1921)


*出演

大橋裕子(クラリネット)
江草智子(ファゴット)
川北祥子(ピアノ)


*プログラムコメント

 19〜20世紀フランスの大作曲家サンサーンス、今年はその没後100年にあたります。本日のカフコンスでは、サンサーンスの300以上の作品中、作品番号のつけられた169曲の最後の3曲を、16分、13分、3分、という演奏時間ですが番号順に演奏いたします。

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 サンサーンスは時代的にもベートーヴェンやシューマン、ワーグナーといったドイツ音楽の影響を受けながらフランス音楽の伝統を確立していった人物。交響曲などそういった雰囲気も垣間見られると思うのですが、室内楽曲やソナタはどうだろうかと考えます。クラリネット奏者にとってはこの曲は必ず通る大切なレパートリーでもあり、冒頭のテーマをはじめ全体に流れるようなフレーズやハーモニーからはフランス人らしいエスプリが感じられるのですが、曲の形式や低音の響きを多く使っているところは重厚感も漂ってきます。悲壮感と表現する人もいるようです。

 モーツァルト、ブラームス、その他にも大作曲家が晩年になるとクラリネットの曲を書くことは界隈ではいい意味で有名な噂話ですが、86歳で亡くなるサンサーンスはその一年程前にもう作曲の計画はないと言った後に、もっとも恩恵の少ない楽器の為にとオーボエ、クラリネット、ファゴットのソナタを作曲したとのことです。消えかかる人生の時間に描く回想、心の揺れや刹那な輝きが所々に表現されているようにも感じます。

 100年と言うことで、私の祖母がただ今101歳なので凄く遠い昔でもないように思っています。100年前、まだ世界は戦中で日本は大正デモクラシーだったわけなのでそれからの時代の変化は凄まじく音楽様式の変化も物凄いのですが、今ここでは少しでもその時代から受け継がれているエスプリを表現できたらと思いながら。

 どうぞ三曲を楽しんでください。(大橋裕子)

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 サンサーンスは1913年にストラヴィンスキーの『春の祭典』の初演に立ち会うも、冒頭の高音のファゴットソロを聞いて「楽器の扱い方を知らない」と激怒し出て行ってしまった、というエピソードがありますが、この1921年作曲のファゴットソナタは、それより高い音域まで使いつつ(現在でも地味に難しいのですが)、楽器に不似合いなことを無理してやるような箇所はなく、吹くたびに、楽器の得手不得手、扱い方を知り尽くしているなと感じます。

 一楽章は回想するようなファゴットのメロディーにリズムが変化していくピアノパートが伴い、二楽章はファゴットの広い音域をヴィルトゥオーゾ的に駆けめぐるスケルツォ。三楽章は夢心地なアダージョから始まり、人生の厳しさも感じられる中間部を経てアダージョに戻って、最後は田舎の踊りのようなアレグロモデラートの短い終結部(切れ目なく続く四楽章のような位置付けです)で楽しく終わります。

 現在でもファゴットはソロ楽器としてそこまで認知されていないと思いますが、100年も前にテノール音域の美しさや得意な跳躍を存分に生かしたソナタを書いてくれたサンサーンスに感謝したいです。「ファゴットってどんな楽器?」と聞かれたら吹きたい一曲です。(江草智子)

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 サンサーンスのソナタを二曲並べるからには聴き比べポイントも書いておくべきかと思います。まずクラリネットソナタはロマン派寄りで、深い嘆きが印象的な三楽章から怒涛の四楽章を経て一楽章冒頭の再現で穏やかに終わります。新古典寄りのファゴットソナタは一楽章もより簡素、三楽章は優雅なバロック調で、民謡調の短い終結部であっさり終わります。軽快な両二楽章では楽器によって違う「跳躍」「速いパッセージ」などの特徴的な音型にもご注目ください。

 ソナタは全六曲が構想されていたそうですが、三曲の完成後に書かれたピアノ曲が作品番号最後の作品となりました。タイトルの「アルバムの一葉」とは、出版物でなく紙のまま挟んで贈呈される自筆のサインなどの一葉を指し、この曲もエドモン・ドゥ・ロスチャイルド男爵夫人に献呈されています。献呈用として易しく書かれた中に、華やかなカデンツァ、自在な転調や謎の増三和音による半音階など、技法も遊び心も感じられる小品です。本日は二つの名曲の後奏曲としてお聴きいただけたらと思います。(川北祥子)


*ブログ

2021-11-10 ご来場ありがとうございました
2021-11-07 サンサーンス没後100年に寄せて(カフコンス147回)
2021-11-06 明日、1年ぶりの開催です!
2021-11-03 アルバムリーフ
2021-11-02 ソナタ集
2021-11-01 没後100年
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2021-01-03 謹賀新年

コメント

_ 青木勇人 ― 2021-11-14 01:28

初めて伺いましたが大変楽しい演奏会でした。未知のサンサーンスの作品を生で聴けて幸せでした。有難うございます。

_ 川北 ― 2021-11-15 06:21

青木さま
ご来場ありがとうございます。
毎回様々なテーマで演奏していますので
またお立ち寄りいただけたら嬉しいです!

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