民謡紀行〜バスクからスペインへ(カフコンス第149回)2022-05-22

バスクからスペインへ!

*曲目

ラヴェル「スペインの歌」
Maurice Ravel (1875-1937)
Canción Española (1910)

カントルーブ「バスク地方の歌」
Joseph Canteloube (1879-1957)
Chants des pays Basques (1949)
  Chorietan buruzagi 一番素晴らしい鳥
  Nik badut maiteñobat 僕には愛する人がいる
  Chori erresiñoula 美しいうぐいすよ
  Lurraren pian 墓に
  Egun batean ある日

トゥリーナ「ゲルニカの木」*ピアノソロ
Joaquín Turina (1882-1949)
El arbol de Guernica op.41-2 (1927)

カステルヌオーヴォ=テデスコ「セファルディの三つの歌」
Mario Castelnuovo-Tedesco (1895-1968)
Three Sephardic songs (1949)
  Montañas altas 高い山々
  Ven y veràs 会いに来て
  Una noche ある夜

オブラドルス「スペインの古い歌」より
Fernando Obradors (1897-1945)
Canciones clásicas Españolas (1921-41)
  Trova 吟遊詩人風に
  Al amor 恋人に
  ¡Oh, que buen amor! ああ何て素敵な愛
  La guitarra sin prima 第一弦のないギター
  El tumba y lé 倒れて起きて

(ベートーヴェン「Una paloma blanca」)


*出演

渡辺有里香(ソプラノ)
川北祥子(ピアノ)


*プログラムコメント

曲目について(川北)

 本日は民謡編曲特集の第8回です。これまでカントルーブの「オーヴェルニュの歌」を全曲演奏してきましたが、今回は同じカントルーブの「バスク地方の歌」と、スペイン民謡の編曲作品を集めてプログラムを組みました。主役はもちろん「歌」ですが、歌は元の民謡の通りでもありますので、それぞれの作曲家の編曲について少しお話しできたらと思います。

 ラヴェルはバスク出身の母の歌うバスク民謡を聞いて育ったそうで、スペインを題材とした名曲だけでなくピアノ三重奏曲の3+2+3拍子等にもその影響が窺えます。民謡編曲コンクール入賞作「スペインの歌」もスペインのギターを彷彿させる伴奏が印象的です。

 カントルーブの「バスク地方の歌」はバスクのフランス側の3地方の民謡を編曲したもので、「自然や大地の伴奏を音楽に書き表した」というオーヴェルニュの歌と手法は同じでも、第1曲の前奏からまさに異国の趣です。第2曲の5拍子、第3曲の3+2+3拍子はバスクの特徴的なリズムで、第4曲には海の表現もあり、終曲はバスクの太鼓を思わせます。

 「ゲルニカの木」はバスク第2の国歌と言われる5拍子の民謡で、同じバスク民謡でもスペインのトゥリーナによる編曲はスペイン寄りの雰囲気を感じさせ、また歌のないピアノ曲のため、旋律にも手を加えてさらに自由に構成されています。

 カステルヌオーヴォ=テデスコはセファルディ(スペイン系ユダヤ)の家系のイタリア人作曲家です。本日の曲目の中で「セファルディの歌」、特に第3曲はアラブ的旋律が異色で、他と同じ西洋音楽の楽譜でこのような歌を歌えるのも編曲作品ならではと言えます。伴奏は伴奏型に徹していて、伴奏で風景を描くというより、民族楽器の弾き語りのようでもあります。

 「スペインの古い歌」は、カタルーニャ出身の作曲家オブラドルスがスペインの民謡や中世の歌を編曲してまとめた曲集(全4巻23曲)です。編曲はカントルーブ的に風景を描く事に加えて、演奏会用を意識していたと思われる華やかなものです。

 なお「バスク地方の歌」はバスク語、他はスペイン語で演奏いたします。


*歌詞大意

「スペインの歌」

さようなら、夫よ
あなたは戦に行ってしまう
忘れないで
この地に残る人のことを
 ララララ...

カスティーリャのカスティーリャ人よ
ガリシア人に良くしてください
行く時は薔薇色
帰る時は奴隷のよう
 ララララ...

「バスク地方の歌」
*一番素晴らしい鳥

一番素晴らしい鳥は夜鳴きうぐいすだ
早朝の光に明るく輝く
ああ、美しい空気が彼を歌わせるのだ

夜鳴きうぐいすは鳥の王だ
私は起きて窓辺へ行き
彼の甘い声に心を奪われる

「私は若くて陽気
心は満たされ、幸せで明るく、苦しみはなく
皆を愛し、誰にも捕われることはない」

*僕には愛する人がいる

僕には愛する人がいる、どんなかって?
背は低くも高くもなく中くらい
美しい瞳が愛に輝き
僕の心をとらえて離さない

愛の苦しみ、ああ大きな苦しみ!
今、僕は知った、愛はこんなに苦しいのだと
君が僕を愛していないのに
僕が君を愛しているなんて言えるものか

君は星をいくつ持っているのだろう?
君の二つの瞳は僕の目に映っていない
君と別れるのは辛い、愛する人よ
僕にとっては、たとえ一時間でも

僕は何をしているのだろう?
気にする必要はない
僕たちのことを人が何と言おうと
愛する人、君は僕を笑わせてくれる

*美しいうぐいすよ

美しいうぐいすよ、僕と一緒に来ておくれ
愛する人のところまでついて来ておくれ
そして、甘い声で伝えておくれ
あなたの忠実な恋人が来ました、と

愛する人の戸口へ着くと
犬が来て吠え始めた
僕は急いで身を隠し
うぐいすは木の上に止まった

「あら、うぐいすだわ、どこから来たのかしら」
「ごめんください、僕には家がなく
 とても喉が渇いてここへ来たんです
 泉で水を飲ませてもらえませんか」

「喉が渇くのも当たり前ね
 今日は一日中暑かったもの
 でも水は汲みに行くから
 ここに泉は無いのよ」

*墓に

愛する人よ、私は墓に苦悩を埋める
あなたとの結婚の願望が頭を巡る
閉ざされた部屋で、ずっと泣きながら
抑えられない気持ちと悲しみに包まれる...
間違いなくあなたは、
 私を苦悩で死なせる運命にあったのだ

星々の中の星よ、私にとって
あなたは唯一の人
私はあなたに何度も求婚した
でも間違いなくあなたは、
 私があなたにふさわしくないと思い
神はあなたを私より良い人に出会わせた

船乗りは船に引き寄せられて海へ向かう
愛する人よ、私は決してあなたを諦めない
一緒に生きる運命ではなかったが
私はあなたに愛を捧げた、返すことはできない
あなたは永遠にそれを持ち続けるのだ

*ある日

ある日、私は仕事中に
妻はいったいどこにいるんだ? と訊ねた
すると言われた、奥さんは飲んだくれていますよ
でも心配いりません!
 *マダレン夫人は大酒飲みで泣き上戸
 このご夫人はツケで飲んで、支払いは夫です!

この女性は裁縫が得意で
アイロンもとても得意
でも彼女が何より愛するのは
スープに入れる白ワイン!
 *マダレン夫人は〜

ある日彼女は、夫を家に残して出かけ
急な坂を登ろうとしたが
酔っていたので力が入らず
道の真ん中で転がった!
 *マダレン夫人は〜

「セファルディの三つの歌」
*高い山々

海沿いの高い山々よ
導いてください、愛しい人の所へ
導いてください、大切な人の所へ
愛する人の所へ
 *愛してください、私が愛するように
 ああ、私は死んでしまうでしょう
 時はただ過ぎていきます
 ああ、私はあなたのせいで死んでしまうでしょう

私が歩くこの道で
あなたは見ないでしょう
泣いて、苦しんでいる私の影を
この痛みはどこから来るのでしょう
 *愛してください〜

*会いに来て

会いに来てちょうだい、一緒に
私たち二人の愛を楽しみましょう

木は雨を、山は空気を求めて泣く
愛しい恋人、私の目があなたを求めて泣くように

雨が降って、通りや中庭を濡らす
私の目が濡らしたのだと、
 愛する人に伝えてちょうだい

*ある夜

ある夜、僕は勇気をふり絞ってあなたの寝室へ向かう
ドアは開け放し、ろうそくは消しておいておくれ
 タララ...

あなたは僕を欲しい、僕はあなたが欲しい
 でもあなたの母親は僕達が一緒になって欲しくない
今夜、僕は神様に祈る
 あなたの母親がぐっすり寝ていますように、と
 タララ...

僕は白くも黒くもなく、誉められる事は何もない
それでもあなたは、私の心に入ってきてくれた
 タララ...

「スペインの古い歌」より
*吟遊詩人風に

投げておくれ、可愛いお嬢さん
涙をハンカチに落として

それをグラナダへ持って行って
銀職人に細工してもらうんだ

それで飾りたいんだ
ペンダントの周りを

聖木曜日に、僕のお嬢さん
ナザレンはそれで着飾るんだ

涙をハンカチに...

*恋人に

キスして、恋人よ、数えきれないくらい
私の髪にふれながら
それから千と百回
それからまた千と百回
その後に...
何千回と三回!

そして、誰も気づいていないから
始めから数え直して
それから...
今度は逆に数えましょう

*ああ何て素敵な愛

ああ何て素敵な愛、遊び方が分かったら
タンボラの叩き方が分かったら
タンボラのランラタプランが分かったら!

ああ何て素敵な愛、遊び方が分かったら
タンボラの叩き方が分かったら
タンボラのランラタプラン
クラリネットのクラカタクラ
ギターのラウラウラウ
バイオリンのリンリンリンが分かったら
ああ何て素敵な愛、遊び方が分かったら!

ああ何て素敵な愛、遊び方が分かったら
サンポーニャの吹き方が分かったら
サンポーニャのララライラが分かったら!

ああ何て素敵な愛、遊び方が分かったら
サンポーニャの吹き方が分かったら
サンポーニャのララライラ
柔らかい音のシターンとヴィオラ
タンバリンのタカタタカ
トランペットとラッパの
 ティンティンティンティンが分かったら
ああ何て素敵な愛、遊び方が分かったら!

*第一弦のないギター

第一弦のないギターは、文句のような音を出す
まるで僕がお前に悪い事でもしているかのように
 ああ、畜生
僕がお前に悪い事でもしているかのように
 それで?

僕の弾くギターには第一弦がない
でも良質の銀の低音弦はある
 ああ、畜生
でも低音弦はある
 それで?

*倒れて起きて

私はまだ小さい女の子だけど、夫を見つけたら
毎年二人か三人の子供を作るわ
 *倒れて起きて、私も一緒に行くわ
 倒れて起きて、私も後で行くわ
 倒れて起きて、粉屋へ行くのよ
 倒れて起きて、粉を挽きに

私は一頭の畜牛しか持っていないけど
六頭以上の子牛を作るわ
 *倒れて起きて〜

男の子たちは、闘牛に襲われるのを怖がって
私に赤い服を脱げと言うのよ
 *倒れて起きて〜

でも、よく言われるでしょう?
角が刺さったら後は悪魔を恐れるだけだ、って
 *倒れて起きて〜


*ブログ

2022-05-23 ご来場ありがとうございました
2022-05-22 民謡紀行〜バスクからスペインへ(カフコンス第149回)
2022-05-21 明日開催です!
2022-05-19 「スペインの古い歌」?
2022-05-17 所感―オブラドルスの「スペインの古い歌」から、と、おまけ
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2022-05-13 情報のない「編曲コンクール」
2022-05-08 所感―ラヴェル「スペイン民謡」
2022-04-28 セファルディの愛の歌
2022-04-23 所感―セファルディの歌と口承
2022-04-17 オーヴェルニュとバスクの犬
2022-04-13 初めてのバスク
2022-04-09 民謡紀行
2022-04-01 バスクからスペインへ

ご来場ありがとうございました2022-05-23

takataka様、お花をありがとうございます!
昨日は久々のカントルーブシリーズにご来場ありがとうございました。カフコンス内のシリーズ別の回数ではモーツァルトが8回でトップだったのですが、これでカントルーブもモーツァルトに追いつきました。次は先手を取りたいです。(と言っていたらモーツァルトの逆襲が7月に...? ※6/1追記)

なお「セファルディの歌」はtakataka様のリクエストで演奏しました。カフコンスでは(実現できるかはともかく)リクエスト大歓迎です。どうぞお気軽にお寄せください。

次回は6/26「還暦祝い〜60歳の作曲家たち」と題して、5人の作曲家のユニークな作品を5人の出演者がそれぞれ演奏します。またのご来場をお待ちいたしております!(川北)


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来月の演奏メニュー

2022年6月26日(日) 11時開演(10時40分開場)
於:本郷・金魚坂 / コーヒーまたは中国茶つき 1,500円
※この回に限り、当日60歳の方は無料でご入場いただけます!

cafconc第150回
還暦祝い〜60歳の作曲家たち

アムラン「子犬のワルツ」(ピアノソロ)
ハフ「ブリッジウォーター」(ファゴットとピアノ)
リーバーマン「優しい声が消えても」他(ソプラノとピアノ)
シルヴェストリーニ「カプシーヌ通り」他(オーボエソロ)
シュナイダー「フルートソナタ」(フルートとピアノ)

川北祥子(ピアノ)
江草智子(ファゴット)
柳沢亜紀(ソプラノ)
荒木良太(オーボエ)
中村淳(フルート)

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