The manna of the day. / カフノーツ#192005-11-20

カフノーツはコーヒーにまつわる短いお話をあれこれご紹介します。 コーヒーでも飲みながらのんびりお読みください。


Or to some coffee house I stray for news, the manna of the day.
一日の糧になるニュースを聞きに、コーヒーハウスにでも立ち寄ろう……。
Matthew Green "The Spleen" (1737)

 イギリス詩人マシュー・グリーンがこう歌ったように、18世紀のロンドンのコーヒーハウスは、こんな風にコーヒー店へ立ち寄る文人であふれていました。「the manna of the day」の「manna」は、出エジプト記にでてくる、神から恵まれた食べもののこと。予期せぬうれしいものや天来の恵みという意味があります。当時のロンドンのコーヒーハウスには学者や文人がたむろし、文学や演劇作品が話題の俎板に載せられて、吟味されたり批判されたりしていたのですから、当時の新聞よりもニュースは早かったはず。いまでいうネット掲示板のようなものでしょうか。発表されたばかりの詩作や芝居は、ロンドンの批評がいちはやく生まれでる場コーヒーハウスで、賞賛の「manna」を授けられるかどうかが運命の分かれ目。『ガリヴァ旅行記』で有名なスウィフトも、若い詩人に詩集刊行をすすめ、そしてその翌日にはコーヒーハウスへ行って批評家のいう意見をこっそりと聞きに行けとアドバイスしています。さらに、どんな批判を聞いても口をつぐんで我慢して、次の作品を出し、失敗しても三度は試してみるようにと付け加えます。失敗を恐れずに、学者の集まるコーヒーハウスでの厳しい批評に耐えてさらに詩作に励んだ者こそ、詩人として認められたのでしょう。文学サロン的コーヒーハウスの存在もあって、18世紀のイギリス文壇は活況を呈したのです。しかし、辛辣な批評に耳を傾けながら口にするコーヒーは、「manna」の味とは大ちがい。無名詩人にとってはさぞ苦い味だったにちがいありません。(カフコンス第22回「ヴィオラカフェ」プログラム掲載。)

【参考文献】バディ・キッチン『詩人たちのロンドン』Matthew Green "The Spleen" Methuen (1936)

西川公子 Hiroko Nishikawa
ウェブやフリペの企画・編集・ライティング。プレイステーションゲーム『L.S.D.』の原案、『東京惑星プラネトキオ』『リズムンフェイス』のシナリオなど。著作に10年分の夢日記をまとめた『Lovely SweetDream』。最近は老人映画研究家。

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