カフェコンセールの歌姫vol.3(カフコンス第68回)2010-01-24


*曲目

サティ「あなたが欲しいの/エンパイア劇場の歌姫」
Erik Satie (1866-1925)
Je te veux (1902)
La Diva de L'Empire (1903-4)

同「左右に見えるもの〜眼鏡なしで」*ヴァイオリン・ピアノ
Choses vues a droite et a gauche (sans lunettes) (1914)
  Choral hypocrite 偽善的なコラール
  Fugue à tâtons 暗中模索のフーガ
  Fantaisie musculaire 筋肉質なファンタジー

マルティヌー「キャバレー"Red Seven"のための3つの歌」
Bohuslav Martinu (1890-1959)
Three chansons for the Cabaret "Red Seven" (1921)
  A summer ballad サマーバラード(*ヴァイオリン助奏つき)
  The miner's song 鉱夫の歌
  The bar バー

プーランク「即興曲15番 エディット・ピアフ讃」*ピアノ
Francis Poulenc (1899-1963)
XVème Improvisation Hommage a Edith Piaf (1959)

同「愛の小径」
Les chemins de l'amour (1940)

(プーランク「トレアドール」*ソプラノ・ヴァイオリン・ピアノ)


*出演

渡辺有里香(ソプラノ)
島﨑祐子(ヴァイオリン)
川北祥子(ピアノ)


*プログラムコメント

 本日は笹塚でのカフコンスのスタートを記念して、カフェ・コンセールやキャバレーで歌われた「歌曲」を集めてみました。サティのカフェ・コンセール用シャンソン、マルティヌーのキャバレーソング、プーランクの芝居の劇中歌に、サティの大真面目な(?)ヴァイオリン曲、歌手ピアフに寄せたプーランクのピアノ曲も交えて演奏します。カフコンスの名の由来であるカフェコンセールの雰囲気をご想像いただければ幸いです。


*歌詞大意

「あなたが欲しいの」(H.Pacory)

* 私にはあなたの苦しみがわかったわ いとしい人
だから望みを受け入れる 私をあなたの恋人にして
分別は遠くに もう悲しみもない
私は憧れる 私たちが幸せになる大切な時を
あなたが欲しいの

私は後悔しない 望むのはたった一つ
あなたのすぐそばで ずっと生きること
私の心があなたの心に
 あなたの唇が私の唇になりますように
あなたの身体が私の身体に
 私の肉体すべてがあなたの肉体となりますように

* 私にはあなたの苦しみがわかったわ〜

そう あなたの瞳の中に 神聖な約束が見える
あなたの恋する心は 私の愛撫を探しに来る
永遠に抱き合い 同じ炎に燃えて
愛の夢の中で 私たちの二つの魂を交わしましょう

* 私にはあなたの苦しみがわかったわ〜

「エンパイア劇場の歌姫」(D.Bonnaud / N.Blès)

* 大きなグリーナウェイ帽子の下には
 輝くような微笑み
その笑顔は魅力的でいきいきと
 驚いて溜息をつく赤ん坊のよう
ビロードの目をしたリトルガール
 それはエンパイア劇場の歌姫
ジェントルマンやピカデリーのダンディたちがみな
 夢中になる女王

たった一言の「イエス」も彼女が甘く言えば
チョッキを着たスノッブたちが熱狂的な歓声で歓迎し
舞台の上に花束を投げる
可愛い顔に浮かぶ皮肉な笑いには気付かずに

* 大きなグリーナウェイ帽子の下には〜

彼女はほとんど無意識に踊り
アオ! はずかしげに安物の下着を持ち上げ
脚を跳ね上げて見せる
それはとても無邪気と同時にとても挑発的

* 大きなグリーナウェイ帽子の下には〜

「サマーバラード」(J.Herold)

ヘイホー! まるでカドリールの列のように、
色白の乙女のようなカバの木が
堤防に沿って立ち並んでいる。
夏の夕べのただ中で、
少女が森のこもれびの中を、
恋人と歩いている。

深い池のそばに、
二人座って互いの目をのぞきこむと、
瞳の中にばら色の愛の光を見つけた。
ホタルが彼女の髪に舞い、
頬が突然バラのように色づいた。

「私を愛して、口づけをして、息が切れるまで、
さあ、あなたの唇を私に重ねたままにして。」
彼女は情熱的にささやいた。
彼は彼女に何度も口づけした。

しかし、しばらくして彼が
別の少女に愛の歌を歌うのはよくあること。
「トララ… 僕の心を温めてほしい、
君のほてった体をこの腕に抱きたい、
夜が明けるまでずっと。」

ああ、まるで葬儀の列のように、
色白の乙女のようなカバの木が
堤防に沿って立ち並んでいる。
夕暮れ時、森の悲しく暗い静けさの中で
少女がすすり泣く。
「あなたの心は冷めてしまった」と。

深い池のそばに、暗い影がひとつ、
それはスイレンの上に横たわった花嫁のヴェール。
謎めいたアシの音で空気が揺れ始めた。
ホタルが彼の髪に舞うが、
彼の頬は青ざめるばかり。

森から小さなフクロウの笑い声がこだました。
「僕は彼女を裏切った。僕の罪を許しておくれ!」
彼はそうつぶやいて
身を投げた。

そう、悪魔が愛の歌を歌うのは
よくあること。
「トララ… またも私の邪悪な力が笑わせてくれた。
私はおまえたちの体をこの腕に抱きたい、
夜が明ける前に。」

「鉱夫の歌」(F.Gellner)

深い地下の炭層が露出した場所で
私があがき傷ついている間に、
若い地主が私のかわいい若い妻を寝取った。

私の息子よ、お前の眉は白っぽく、髪はやわらかい。
私はおまえが私の息子でないと知っている、
おまえはあの男の愛のたまものなのだ。

息子よ、われわれのお粗末な部屋にいるおまえを
私は気の毒に思う。
おまえも鉱夫になる運命なのだ。
その生活はみじめなものだろう。

たとえ鋼の手でもこなごなになるのだ。
おまえのその小さな手で一体何ができる?
人生はつらいものになるだろう、
堅くびくともしない岩と取っ組みあいながら。

「バー」(J.Dréman)

ここにはみんなが飲みに来たものだ。
酔っぱらったり歌ったり、楽しく過ごしたり、
ワインと女に溺れたり、
黙りこんだりエクスタシーに歓喜したり、
だれかの魂が凍りつくまで
愛と繁栄のために乾杯するために
みんなバーに来たものだ。

* 素晴らしいボトルのひどいワイン、
天井までゆらゆらのぼる強い煙草のけむり。
だらしない女が静かにわらい、
客を変えたり、テーブルを変えたり。

ボックス席の死んだような静けさの中で、
バーの楽しさから離れ、
何も頼まず、二人は座っていた。

それでも、彼らはみな飲みにやって来た、
酔っぱらったり歌ったり、楽しく過ごしたり、
ワインと女に溺れたり、
欲望に屈しながら、
彼らは体と魂をさらけ出した、
煮えたぎる苦痛で血をかきまわすために。
みんなバーに来たものだ。

* 素晴らしいボトルのひどいワイン〜

なぜ、カーテンが
ボックス席の上にひっぱられていたのか?
すべてがバーで浮かれていた時に、
二発の銃声が響き渡った。
そこには二人の死体が…

「愛の小径」(J.Anouilh)

海へ続く小径には
私たちの足どりが残っていた
散った花々 木々の下に響くこだま
私たち二人の明るい笑い声
ああ 幸せな日々
過ぎ去った輝く歓び
私は心の中に何の跡も見つけられないままに行く

* 私の愛の小径 私はいつもあなたを探す
失われた小径 あなたはもうなく こだまは響かない
絶望の小径 思い出の小径
出会った日の小径 素晴らしい愛の小径

もしいつかそれを忘れなければならないのなら
人生がすべてを消し去るだろう
私は願う 私の心に一つの思い出が
ほかの恋よりも強く残るよう
小径の思い出
震えながら 狂おしく
あの日私はあなたの手を燃えるように感じた

* 私の愛の小径〜