所感―セファルディの歌と口承2022-04-23

スペインの歌を歌った経験は少ないですが、今回のプログラムの中でもラヴェル、カステルヌオーヴォ-テデスコ、オブラドルスの曲を練習していると、曲を通して刻まれ流れるリズムに身をゆだねながら歌うことがとても大切に感じられます。今回のプログラムは民謡ベースの曲目で揃っているのでますますそう感じるのかもしれません。どんな曲でもそうなのですが、本場出身の歌手の録音などを聞くと、ああ、そうか、と自分には体得しきれない何かを知ることはよくあります。今回もまさにそうで、特に装飾音の感じや拍の表し方が難しいな、と思います。

そんな中、今回演奏するセファルディの民謡の原曲のひとつと思われる歌を歌っているおじいさん・おばあさんの録音を聞くことができました。楽譜とはもちろん異なりますが、大筋ではほぼ同じ曲もあります。採譜のすごさも感じますし、私にとってはこんなに難しい曲をよく口伝えで歌い継いで来たなあ、とも思いました。日本の民謡も八木節などのように比較的音程とリズムがしっかりしているものでないとなかなか歌うことができません。歌えるといっても、独特な歌いまわしは日本人である自分でさえ非常に難しいです。楽譜から音を拾うのでなく、口承だからこそのワザなのだろうと思います。

ところで、口承というと思い出すのは、私の中学の体育祭です。体育祭の前に応援団の先輩から応援歌を口伝えで教わるのです。しかし教わった歌は、歌詞とリズムは大体わかるものの、音程は高いか低いかのどちらかでほぼ叫び、といったものでした。のちのちその歌はロシアの収穫の歌だったと判明するのですが(全くの偶然に“世界の歌曲集”のような楽譜の中で見つけた)、音程は崩壊していたものの歌詞とリズムはほぼ原曲と同じでした。口承は例年成功していたのだと思いますが、応援団のエール風な歌い方ゆえに段々とメロディが変化し、私たちの頃にはほぼ叫びとなって伝わってきたのだろうと想像します。(渡辺)


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来月の演奏メニュー

2022年5月22日(日) 11時開演(10時40分開場)
於:本郷・金魚坂 / コーヒーまたは中国茶つき 1,500円

cafconc第149回
民謡紀行〜バスクからスペインへ

ラヴェル「スペインの歌」
カントルーブ「バスク地方の歌(全5曲)」
トゥリーナ「ゲルニカの木」(ピアノソロ)
カステルヌオーヴォ=テデスコ「3つのセファルディの歌」
オブラドルス「スペインの古い歌」より
  Trova / Al amor / Oh, que buen amor /
  La guitarra sin prima / El tumba y lé

渡辺有里香(ソプラノ)
川北祥子(ピアノ)

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