えん・第43回ディスカヴァリーコンサート「声と笛のコラボレーション」2006-06-17

於:スタジオ・ヴィルトゥオージ

*曲目

ヘンデル「9つのドイツアリア」より
Georg Friedrich Händel (1685-1759)
Neun Deutshe Arien (ca1724-27)
  4. Süsse Stille, sanfte Quelle
   快い静けさよ、穏やかな泉よ
  9. Flammende Rose, Zierde der Erden
   燃えるようなバラよ、大地の飾りよ

A.スカルラッティ「カンタータ "快い孤独な場所"」
Alessandro Scarlatti (1660-1725)
Cantata "Solitudini amene"

梁田貞 (1885-1959)
「昼の夢(高安月郊)」(1911)

橋本国彦 (1904-1949)
「城ヶ島の雨(北原白秋)」(1928)
「笛(西条八十)」(1934)

ゴーベール「異教の夕べ/森」
Philippe Gaubert (1879-1941)
Soir païen (1908?)
La forêt (1917)

ルーセル「ロンサールの2つの詩」
Albert Roussel (1869-1937)
Deux poèmes de Ronsard op.26 (1924)
  Rossignol, mon mignon 私の愛しいうぐいすよ
  Ciel, aer et vens 空、大気、風、

プレヴィン「2つの想い出」
André Previn (1929-)
Two remembrances (1995)
  A love song 愛の歌
  Lyric 歌詞

ケックラン「リリアンのアルバム 第1集」より
Charles Koechlin (1867-1950)
L'album de Lilian Première série op.139
  6. Skating-smiling スケーティング・スマイリング
  7. En route vers le bonheur 幸せへ向かって

(サンサーンス「見えない笛」)


*出演

渡邊玲奈(フルート)
渡辺有里香(ソプラノ)
川北祥子(ピアノ)


*曲目について

ソプラノ、フルート、ピアノによる作品集。曲目が17-8世紀と20世紀に分かれてしまったのは、ロマン派が管より弦楽器優勢で、また「歌曲」が「声楽とピアノ」という定型の編成で確立したためだろうか。

日本において「西洋音楽のスタイルによる芸術歌曲」が書かれるようになったのが1900年頃で、11年の「昼の夢」はごく初期の歌曲として滝廉太郎の「花」「荒城の月」などと並ぶ重要な作品。(その後、山田耕筰などを経た)「近代歌曲」と呼べる時代の初期作品が「城ヶ島の雨」「笛」、橋本国彦は元ヴァイオリン奏者であったため、ヴァイオリンやフルートを用いた歌曲が多く書かれたと考えられる。

本日の演目はバロック以外、この編成のために書かれたもので、この編成用に編曲されたものではない。近代ではこの編成も珍しくはないが、ゴーベールはフルート奏者でもあり、詩も1曲目にはパンが登場、2曲目は葦を吹くという内容、ルーセル(ソプラノとフルートのみの二重奏)は1曲目がうぐいす、ということで、「フルート作品と歌曲の両方を得意とする作曲家が書いた」「笛や鳥などを表すためにフルートが用いられた」という特徴が現れている。(フルート作品が有名な作曲家では他にシャミナード、ユー、マルタンなどもこの編成で書いている。)

「フルートつき歌曲」の印象のゴーベールに対しルーセルは二重奏と言えるが、最後の2作品はさらに独創的な編成で、器楽と声楽の境も薄れ、三重奏の感が強くなる。プレヴィンはアルトフルートを使用。ケックランはフルートと一部ピッコロも使用し、歌も歌詞がなくヴォカリーズ(母音やラララ等)で歌われる(題名のリリアンは「会議は踊る」などの女優リリアン・ハーヴェイ、「リリアンのアルバム第1集」は全9曲で本日はその中から3重奏の2曲を演奏)。


*歌詞大意

「快い静けさよ、穏やかな泉よ」(Barthold Heinrich Brockes)

快い静けさよ、
安らかに静まりかえった穏やかな泉よ!

心でさえも喜ぶだろう
この忙しくむなしい時の後に
あの静寂を目の前にしたならば
それは私達に永遠に与えられているのだ

「燃えるようなバラよ、大地の飾りよ」(Barthold Heinrich Brockes)

燃えるようなバラよ、大地の飾りよ
魅惑的に華やいだ輝く庭園よ!

おまえの素晴らしさを見た目は
驚くべき優美さに驚くにちがいない
神の御業がおまえが創り出したのだと

「快い孤独な場所」(Pietro Metastasio)

快い孤独な場所、陽の当たった小さな丘や陽に陰った谷
お前たちは楽しい時には愛すべき情景だったが
私の目には悲しみの舞台でしかない。
私はお前たちに私が感じている悲しみを癒してもらおうとは思わない。
お前たちの歓びは今や私の苦悩なのだ。
私はお前たちがこれ以上美しく若草に満ち、
花は生き生きとすることはないとは言いたくないが
しかしお前たちはあまりにも美しく、私はあまりにも苦しい。

私はまた美しい花や色づいた草の、
春の恋人のような装いをしたお前たちに見とれてしまう。
そよかぜが枝にくちづけするのを競ったり
美しいせせらぎが金髪の妖精のあいだを軽やかに流れる。

それでもなお、
お前たちの中には私が焦がれる苦痛の緩和を見つけ出せず、
イレーネを探してもみたけれど見つけ出せない。

かつてあなただけが私の悲しみの大きな支えであり
ただよう小川だった。
しかし今はその悲しみに満ちたさざめきを聞く限り
私の苦悩は増すばかりだ。

「異教の夕べ」(Albert Samain)

それは薔薇と琥珀の色の夕べ
岬の上のアドニスの神殿は
柱廊の影を黄金色の背景に浮き立たせ
最初の星が海の上に輝く

清らかな葦が和音を奏でるうち
遠くの丘でパンが身体を起こし
砂浜でニンフが素足で踊るのを眺める
アジアの船が古い港を香気で満たす

女たちは黄昏の時を
泉のほとりに水瓶を置いて喋って過ごし
牛たちは疲れをいやす
夜が訪れシリアの薔薇が香る

そしてディアーヌはこの夢の夜
三日月の細い光りに銀色に照らされた
黒い深い森の奥で
エンディミオンの瞳に接吻する

「森」(Henri de Regnier)

一本の小さな葦があれば充分だ
草原 牧草 柳 歌う小川を震わせるには
一本の小さな葦があれば充分だ
森を歌わせるには

通る者はそれを聞く
夜の奥底に 彼らの想いの中に
静けさの中に 風の中に
はっきりとかすかに 近くに遠くに

通る者は彼らの想いの中に
彼ら自身の奥底に耳を傾け
もう一度それを聞き
歌をずっと聞くだろう

愛が訪れいつかその泣きやつれた顔を映した泉で摘んだ
この小さな葦があれば充分だ
通る者を涙させ草原や水を震わせるには
そして私は一本の葦で森全体を歌わせた!

「ロンサールの2つの詩」(Pierre de Ronsard)

私の愛しいうぐいすよ、この柳の植え込みで 
一人思いのまま枝から枝へと飛びまわり、
いつも口ずさまねばならない歌を
歌いながら通る私と競って歌っておくれ。
私たちは二人してため息をつく、
あなたをとても愛する人の好意を
あなたの甘い声は魅きつけようとしている、
私の心にこれほど苦い傷をつけた美しさを
私は悲しみ悔やんでいる。
しかしうぐいすよ、
私たちには一つ違っているところがある。
あなたは愛され、私はそうではない、
たとえ二人が同じような歌を歌っていても。
あなたは甘い声で愛する人を酔わせるけれど
私の愛する人は私の歌を軽蔑し
聞こえないように耳をふさいでしまう。

空、大気、風、平原、はげ山、
岐れた丘、緑の森、曲がった岸、波うつ泉、
雑木林、緑の林、半分開いた苔むす洞窟、
牧草地、つぼみ、花、露にぬれた草、
ぶどう畑、亜麻色の浜辺、
沼地、山脈、そして私の悲しい詩よ、
旅立ちにあたり心配と憤りにやつれ、
近く遠くに私を動揺させるこの美しい
景色の前には言えなかった別れの言葉を、
お願いだから、空、大気、風、山、平原、
雑木林、森、岸、泉、洞窟、牧草地、花よ、
私の代わりに伝えておくれ。

「愛の歌」(Else Lasker/Schuler)

夜 私のところへ来て
私達は寄り添って眠るでしょう
私は疲れている
起きていることが寂しくて
奇妙な鳥が早朝の暗がりの中でもう鳴いている
まだ夢と私が向き合っている時に
春の前に花は開く
あなたの瞳の色に染まって

夜 私のところへ来て
七つの星のついた靴で
愛は夜更けまで天幕にくるまれるでしょう
月が灰色の天の幹から上る
私達は愛しあうでしょう
静かに 二匹の稀少な動物のように
高い葦の蔭で
この世界の蔭で

「歌詞」(Frau Eva)

私はあなたのもの
あなたは私のもの
そう私達は信じている
あなたは私の心の中に入り
小さな鍵はなくなってしまった
あなたはそこに居続けなければならない
永遠に

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