ベッリーニとヘンツェ2016-06-15

4曲が決まって最後にピアノソロを考えることになりました。残り時間でどんな曲を入れるかというのは楽しくも困難なミッションです。

まず検討すべきなのはベッリーニのピアノ曲ですが、習作か断片なので、あまり良いものが見つからず...

次に、メインの「協奏的変奏曲」の前作でやはりベッリーニ絡みの「”ノルマ” による華麗な変奏付き幻想曲 op.25」。ピアニストでもあったニコライによる「どこのムードミュージックオーケストラ?」と驚くようなピアノコンチェルトで、ソロでも弾けなくはないのですが... (ちなみにこちらも「Casta diva」と「Dell'aura tua profetica」という有名どころだけど1幕1場で完結してしまう少々安易な選曲。)

そして、リストら6人の作曲家の合作による「清教徒」の「Suoni la tromba」の変奏曲「ヘクサメロン」(以前にタールベルクとショパンの箇所を演奏)も魅力的ですが、20分かかってしまいます...

と悩んだ末、思い切って20世紀の作品、ヘンツェ(1926−2012)の「ルーシー・エスコット・ヴァリエーションズ(1963年)」を取り上げることにしました。ベッリーニとの関係はというと、この曲の楽譜には次のようなヘンツェ自身による前書きがあるのです(テキトーすぎる訳と省略でスミマセン):

1820年頃ドルリーレーン劇場で歌ったコロラトゥーラソプラノのルーシー・エスコットは、素晴らしい声を持ち「夢遊病の女」のアミーナを得意とした。彼女は肖像画でしか見たことのないベッリーニを秘かに愛していたが、彼の早い死による愛の痛みは彼女の実在を少しずつ隠していった。彼女の声はますます高くなって、もはや人間の耳には聴こえなくなり、姿はどんどん小さく優美になって、とうとうこの世から消え、テムズ川の妖精となった。彼女の十八番のアリアに基づくこのヴァリエーションは、ルーシー・エスコットの思い出と死亡記事として捧げるものである。

架空の歌手のお話と思っていたら、ルーシー・エスコット(1827-95)というアメリカ人歌手が存在したようですね。実在の人物の名をこんなお話とタイトルに使ってしまうなんて...

そしてこんなお話が書かれる位ベッリーニの肖像画が美しいのも事実です。彼は「自他ともに認める」美青年(つまりナルシスト)で、衣裳持ちだった事でも有名、ハイネも「背が高くスレンダー、身のこなしは優雅で色っぽくさえあり、白い肌にカールした金髪、碧眼に高い鼻...」と描写しています。しかも33歳で亡くなったので、若い肖像画しか残っていませんし。

作品は「時代を超えた美と現代的要素との融合」(ショット社弔辞より)というヘンツェ評にぴったりと当てはまるもので、即興的な短い序奏に続いて、原曲から遠からずも近からずな「Come per me」(アミーナのアリア)が提示され(同じ曲をニコライではホルンで演奏するので聴き比べを)、このモティーフで曲が紡がれていきます。元ネタ「夢遊病の女」から132年も後の作品で、ベッリニアーナ・カフェの「いろいろ」感も一気に増したと思うのですがいかがでしょうか...?

さて、これで6/26の曲目が全て出揃いました。前半はベッリーニ作品で、「カプレーティとモンテッキ」の名アリア「おお幾度か」、おじいちゃんのもとで書いたと思われる「Tecum principium」、学生時代の習作「協奏曲」の3曲。後半はベッリーニの「夢遊病の女」をもとにしたドイツの2作品、ヘンツェ「ルーシー・エスコット・ヴァリエーションズ」とニコライの「協奏的変奏曲」です。ベッリーニの「いろいろ」を取り揃えてみなさまのご来場をお待ちいたしております!


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今月の演奏メニュー

2016年6月26日(日) 11時開演(10時40分開場)
於:本郷・金魚坂 / コーヒーまたは中国茶つき 1,500円

cafconc第121回
ベッリニアーナ・カフェ

ベッリーニ「"カプレーティとモンテッキ" より おお幾度か」sop,hr,pf
同「Tecum principium」sop,pf
同「協奏曲 より Allegro polacca」hr,pf
ヘンツェ「ルーシー・エスコット・ヴァリエーションズ」pf
ニコライ「ベッリーニの "夢遊病の女" による協奏的変奏曲」sop,hr,pf

柳沢亜紀(ソプラノ)
笠間芙美(ホルン)
川北祥子(ピアノ)

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