アイアランド/コテージパイ2012-05-06

今回のメイン、アイアランド(1879−1962)のピアノ三重奏曲第1番「幻想」は、1907年の「コベット・コンペティション」で3位入賞し、作曲者の名を世に知らしめるきっかけになった作品です。

19世紀から20世紀にかけてのイギリス音楽復興の時代に、室内楽の分野で単なるパトロンと呼ぶには大きすぎる功績を残したのが実業家ウォルター・ウィルソン・コベット(1847-1937)です。彼はビジネスマンとして世界を飛び回る一方で、幼少から学んだヴァイオリン(裕福な家庭で父からガダニーニを与えられたとか!)をアマチュアのオケ等で弾いていましたが、ヨアヒム・カルテットのベートーヴェンを聞いて室内楽にのめり込むようになり、リタイア後にはその財力をもって、室内楽作曲コンクールの開催、室内楽作品の委嘱、室内楽図書館の設立、室内楽事典の編纂、室内楽に貢献した人に与えられる賞の設立など、余生を室内楽に捧げました。

コベットの作曲コンクールは、室内楽による「ファンタジー」という課題で、1905年(弦楽四重奏)と07年(ピアノ三重奏)に開催されました。彼が理想とした「15〜6世紀イギリスのファンタジー/ファンシーに類する新しい作品」の意図は、彼自身がアマチュアだった事もあり、正確に定義できるものではなかったようですが、2回のコンクールと、その後行われた「ファンタジー」作品の委嘱を通して、20世紀イギリスの室内楽作品には多くの「ファンタジー」が残されました。

アイアランドの応募作は、後期ロマン派的な(後のイギリス印象派の面影は薄い)習作とはいえ、既に緻密に練り上げられていて、3位というのは過小評価にも感じます(強いて言えば他作品に比べて「複数セクション」に統一感がありすぎる?)。実際コベットは応募作品を自らプロに混じって弾いて審査に加わり、しばしば周りと評価の相違もあったと言われていますが、アイアランドはこの評価を喜び、コベットにヴァイオリンソナタ第1番を献呈しました。

コテージパイ(シェパーズパイの牛肉版)とフィッシュアンドチップス

さて、合わせの後には食を研究するのがこのメンバーの常(単に宴ry)、今回はコテージパイやフィッシュアンドチップスを作ってみました。けっこう御馳走なのに彩りが悪いところはイギリス的な気が。そしてイギリス料理の本には「(パイ類は)通常は冷めた物を食べる」という一文が...(><)


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今月の演奏メニュー

2012年5月13日(日) 11時開演(10時40分開場)
於:本郷・金魚坂 / コーヒーつき 1,500円

イギリスの三重奏

フリスキン「幻想三重奏曲」
レベッカ・クラーク「子守唄」(vn&vc)
アイアランド「幻想三重奏曲(三重奏曲第1番)」

島﨑祐子(ヴァイオリン)
船田裕子(チェロ)
川北祥子(ピアノ)

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フリスキン/サンドイッチ2012-05-08

コベットの作曲コンクールには各回とも67作品が集まり、結果は

第1回(1905年、弦楽四重奏)
1位 ウィリアム・ハールストーン
2位 フランク・ブリッジ
3位 ハイドン・ウッド

第2回(1907年、ピアノ三重奏)
1位 フランク・ブリッジ
2位 ジェームズ・フリスキン ←今回の演奏曲
3位 ジョン・アイアランド  ←今回の演奏曲

となりました。(ちなみに選曲の段階ではこの順位を知らず「幻想」にも絞っていませんでしたので、わざわざ1位を外して2位と3位を取り上げたわけではありません/焦)

ピアニスト、バッハ弾きとして知られるフリスキン(1886−1967)ですが、コンクール応募時は王立音楽大学でピアノと作曲を学んでいました。同じスタンフォード門下のアイアランドやブリッジが入賞時に30歳近いのに対し、フリスキンは第2回に21歳で2位、第1回にも19歳で入選しており、相当優秀な学生だったと思われます。

アイアランドやバックスのトリオが情熱に溢れているのに比べ、フリスキン作は寂しさに満ち、冷めているようにも感じられます。また、アイアランドらの作がブラームスから未来へ向かっているとすれば、フリスキン作はメンデルスゾーンあたりを振り返っているようにも思えます(彼の他の作品はそうでもないようです)。が、今回は、確実に大作なブリッジではなく、少々不思議な印象のフリスキンに敢えて挑戦することにしました。ご来聴いただけたら嬉しいです。

アメリカに渡ったイギリスのサンドイッチ?

さて、今回の食文化研究はサンドイッチ。具は卵&キュウリ、チェダーチーズ&ターキー、コンビーフ&ポテトです。ターキーがスペシャルなつもりで作りましたが、その昔のイギリスでは新鮮なキュウリを入手できるのがステイタスで(自分の農園があったり、海外から特別に取り寄せたり?)、キュウリのサンドイッチこそがスペシャルな物だったそうです。

そして、イギリスの正式(?)なサンドイッチは具の味付けに塩しか使わないという説も。知らずにマスタードやコショウも入れてしまいましたが、(フリスキンのように)アメリカに渡ったイギリスのサンドイッチ、ということで...


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今月の演奏メニュー

2012年5月13日(日) 11時開演(10時40分開場)
於:本郷・金魚坂 / コーヒーつき 1,500円

イギリスの三重奏

フリスキン「幻想三重奏曲」
レベッカ・クラーク「子守唄」(vn&vc)
アイアランド「幻想三重奏曲(三重奏曲第1番)」

島﨑祐子(ヴァイオリン)
船田裕子(チェロ)
川北祥子(ピアノ)

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レベッカ/スコーン2012-05-10

今回はフリスキンとアイアランドのトリオを中心に演奏しますが、2曲の間にはレベッカ・クラーク(1886−1979)の小品「子守唄」を挟むことにしました。ヴィオラ奏者としても活躍した彼女の室内楽の多くは自身の演奏の為に作曲されており、ヴィオラ(またはヴァイオリン)とチェロのための「子守唄」(1916〜8年頃)は、同じイギリス出身の国際的な女性チェリストMay Mukleとのデュオのために書かれた二重奏曲です。

レベッカもまた、コベットの作曲コンクールの全入賞者を輩出したスタンフォード門下の一人でした(彼女の作品リストに1905〜07年頃の弦楽四重奏、ピアノ三重奏はありませんが、08年にスタンフォードに「才能を認められて」入門したというレベッカなので、コンクールに応募していた可能性もないとは限りません)。同門のフリスキンとは42年頃にニューヨークで再会し(フリスキンは14年、レベッカは16年に渡米)、44年に結婚、レベッカは2人(ヴィオラとピアノ)のために「I'll bid my heart be still」(スコットランド古謡による小品)を作曲しました。

バターミルクは生クリームで代用

さて食文化研究はクロテッドクリームとジャムを添えたスコーン。スコーンというとケ○タの大きいスコーンが思い浮かんでいましたが、元々は「一口大の」という語源だということで、小さく作ってみました。


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今週末の演奏メニュー

2012年5月13日(日) 11時開演(10時40分開場)
於:本郷・金魚坂 / コーヒーつき 1,500円

イギリスの三重奏

ブリッジ「9つのミニアチュア」より ←追加しました(5/9)
フリスキン「幻想三重奏曲」
レベッカ・クラーク「子守唄」(vn&vc)
アイアランド「幻想三重奏曲(三重奏曲第1番)」

島﨑祐子(ヴァイオリン)
船田裕子(チェロ)
川北祥子(ピアノ)

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