カウエルの酷評2023-09-03

今回カウエルのピアノ曲コーナーを作ることを歌姫・渡辺さんに相談したところ、同じカウエルの「3つのアンチモダニストの歌(1936)」を歌ってもらえることになりました。この曲の歌詞はなんと新聞記事、それもワーグナー、R.シュトラウス、ストラヴィンスキーへの酷評です。

1. ナチュラルを期待するとシャープ、シャープを期待するとナチュラル
(「ワーグナーの序曲の作曲法」と題し「被害者」と署名された詩、アメリカの新聞に掲載、1884年頃)
A sharp, where you'd expect a natural

2. 聞け!ピットから聞こえる恐るべき音が血を凍らせる
(シュトラウス「サロメ」のアメリカ初演に際してのニューヨークワールド紙の無記名記事、1909年2月)
Hark! from the pit a fearsome sound

3. 誰がこの凶悪な「春の祭典」を書いたのか?
(ストラヴィンスキー「春の祭典」のアメリカ初演に際してのボストンヘラルド紙の無記名記事、1924年2月)
Who wrote this fiendish 'Rite of Spring'?

名曲が発表当時にどう受け止められたのか、その理解のなさ、しかし気のきいた文章、それをアンチモダニストと呼んで曲をつけてしまうウルトラモダニストのカウエル、そのカウエルも3人のスタイルを描き切れていないかもしれないところ等々、100年近く経った現在ならではの楽しみ方ができる曲だと思います。

この3つの歌詞は、ニコラス・スロニムスキー(ロシア系アメリカの作曲家、指揮者、評論家、編集者)が編纂した「Music Since 1900」からとられており、(おそらく、後に何冊かをまとめたものが?)日本では「クラシック名曲『酷評』辞典」として出版されています。この辞典にはカウエルも載っていて、「カウエルは音群(トーン・クラスター)を発明したとされている。ピアノを拳と前腕を用いて鳴らすのだという! 何を遠慮しているのだろう? 尻を使えばもっとたくさんの音が出せるではないか!」(後略、ドイツ新聞、1932年)と酷評されていました...

その後20世紀後半には逆にモダニストでなければ酷評される時代もありましたが、21世紀には新しさが最重要視はされなくなった気がします。多様性の時代なのでしょうか? それとも新しいものは今も酷評で握りつぶされてしまっているのでしょうか? <川北>


--------------------------------------------------

今月の演奏メニュー

2023年9月10日(日) 11時開演(10時40分開場)
於:本郷・金魚坂 / コーヒーまたは中国茶つき 1,500円

cafconc第159回
カフェコンセールの歌姫vol.8

ドリング「色の組曲」より「ブルーエア」 *pf solo
同「ベッジュマン歌曲集」より「ナイトクラブの女主人の歌」
イベール「青髭」より「メルポメーネの2つの歌」
同「鉄の騎士」より「フロリンドの嘆き/ガリアーヌの子守歌」
カウエル「富士山の白雪/エオリアンハープ/バンシー」*pf solo
同「3つのアンチモダニストの歌」
予定

渡辺有里香(ソプラノ)
川北祥子(ピアノ)

--------------------------------------------------