民謡編曲2023-12-01

今回の演奏曲は全て民謡の編曲で、歌の2曲は20世紀前半のフランスとスペインの歌曲集、フルートの入る3曲は現存の作曲家によるものです。

故郷の民謡による「オーヴェルニュの歌」で有名なカントルーブ(1879-1957)は、民謡編曲について「無伴奏で歌う農民の周りにある、芸術家にしか聞こえない自然や大地の伴奏を書き表したもの」と語っていて、歌が繰り返す際の伴奏の変化も聴き所ですが、このノエル集は繰り返し記号で書かれ、オーケストラ版もなく、小規模な印象です。かと言って家庭でピアノを弾きながら歌う曲集というわけでもなさそうなのですが。

同い年でおそらくカントルーブとも親交があったホアキン・ニン(1879-1949)も、スペイン民謡の編曲で有名ですが、「これは和声付けではなく様式化であり、または民謡を題材として構成された歌曲と言ってもいい」と語っていて、カントルーブとはまた少し違うニュアンスです。10曲それぞれのスペイン各地の特徴もニンの編曲によってさらに色濃く表されているのかもしれません。これはもう家庭用ではなく芸術歌曲集です。

ドイツのアンドレアス・タルクマン(1956-)もオフィシャルサイトで「クリエイティブな編曲家であり、多才な作曲家」と(編曲家として先に)紹介されていました。「クリスマスの歌」は、フルートが入ることによって歌も主旋律だけでなく対旋律を歌ったり、フルートがナイチンゲールを表したり、ピッコロにも(今回割愛した曲ではアルトフルートにも)持ち替えたり、と趣向の凝らされた演奏会向け作品と言えます。

ハンガリーの作曲家ラースロー・クラリ(1954-)は、電子音楽やマルチメディア作品もある中で、ハンガリー民謡を題材にした作品も有名なようです。24曲のキャロル集「ハンガリーのキャロル」は、どんな楽器で演奏してもよい、という、完全に家庭向けの体をなした曲集なのですが、音を出してみると、どの曲も短いながら音楽的に深く魅力的で、バルトークの「子供のために」を思い起こさせます。

アメリカの作曲家・フルート奏者のゲイリー・ショッカー (1959-)は編曲家ではありませんが、5曲のクリスマスキャロル編曲集があったので、「サイレントナイト」や「もろ人こぞりて」などの有名な曲の中から「ルーマニアのキャロル」を選んでみました。楽譜の表紙はプレゼントの箱の図案になっていて、まるでこの曲集自体がショッカーさんから私たちへのクリスマスプレゼントのようです。

民謡編曲であっても取り組み方は普段と変わりないのですが、ふと、遠い国の民謡をこの日本で演奏しているのが不思議に思えたりもします。今回特にスペインのキャロルには「こんなに暗い雰囲気なのに寿(ことほ)いでいるのか!?」と驚かされたりもしながら練習中です。(川北)


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明後日の演奏メニュー

2023年12月3日(日) 11時開演(10時40分開場)
於:本郷・金魚坂 / コーヒーまたは中国茶つき 1,500円

cafconc第162回
民謡紀行vol.9〜クリスマス編

カントルーブ「フランスのクリスマスの歌」全7曲
クラリ「ハンガリーのキャロル」より *
ニン「スペインのクリスマスの歌」全10曲
ショッカー「ルーマニアのキャロル」*
タルクマン「クリスマスの歌」より *

渡辺有里香(ソプラノ)
川北祥子(ピアノ)
ゲスト:周藤典子(フルート)*

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