吸血鬼がドン・ジョヴァンニにもオランダ人にもちょっと似てる件2017-08-14

19世紀ドイツのホラー・オカルト題材のオペラといえばまずは「魔弾の射手」ですが、その流れをくんで「さまよえるオランダ人」への橋渡しをするのがマルシュナーの「吸血鬼」。ワーグナーは9歳で「魔弾」を見てハマり、19歳の時には歌劇場の合唱指揮の初仕事で「吸血鬼」のリハーサルを担当し(テノールの兄のためにアリアの追加も書いた)、この2作から大きな影響を受けていると言われます。

今回取り上げるのは、吸血鬼ルートフェン卿が、ボスから「明日の真夜中までに3人の花嫁の生き血を吸わないと命はない」と言われ、「なんという喜び! 彼女の血が私に新しい命を授けるのだ!」と歌う、超カッコいいアリアです。この後、命令通りに花嫁を手中にしていくあたりはどこかドン・ジョヴァンニ風でもあり、1人目はエルヴィラのようにルートフェンに惚れて追ってきた女だったり、2人目はツェルリーナのように結婚式の準備中の花嫁で、口説かれてあっちの小屋へ行って犠牲になったり、オランダ人のゼンタっぽく(吸血鬼のほうが元ですが)吸血鬼伝説のバラードを歌ったりもします。3人目はルチアのように恋人がいるのに親に結婚を決められて困っていて、その恋人はルートフェンの秘密を知る友人で魔弾のマックスぽくもあります。それはともかく、マルシュナーは少年時代から猟奇的な題材で作曲していたそうで、ちょっと引きますね...

さてワーグナーつながりでもう1曲、ピアノで演奏するタウジヒの「幽霊船」は、Strachwitzの同名の詩(バラード)を元に、荒れ狂う海に現れる幽霊船を描いた交響詩のピアノ編曲版です。オケでないと多少単調な印象もありますが、19世紀半ばの19歳の処女作としては斬新だったり、トリスタン和声風の部分もあったり... あれ?この曲が60年作でトリスタンは65年初演? でもトリスタンのスコアは60年に完成したとされていて、タウジヒはワーグナーの写譜を手伝っていたので、ちゃっかり自作に取り入れてしまったのかもしれません。まあその前に「オランダ人」の影響も大きすぎですが、パクりではなくリスペクトということで。


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今週末の演奏メニュー

2017年8月20日(日) 11時開演(10時40分開場)
於:本郷・金魚坂 / コーヒーまたは中国茶つき 1,500円

cafconc第128回
ホーンテッド・カフェ〜19世紀のホラー

グノー「操り人形の葬送行進曲」fg.
マルシュナー オペラ「吸血鬼」より 吸血鬼のアリア bar.
サンサーンス(ガリボルディ編)「死の舞踏」fg.
レーヴェ「霊の生活/魔王」 bar.
タウジヒ「幽霊船」pf.
クロイツァー「死のファゴット」bar.fg.pf.

藪内俊弥(バリトン)
江草智子(ファゴット)
川北祥子(ピアノ)

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