シュポアの「魔王」~没後150年記念(カフコンス第57回)2009-01-25

*曲目

ルイ・シュポア:
Louis (Ludwig) Spohr (1784-1859)

「ピアノに向かう彼女 op.138」
(歌を伴うピアノのためのソナチネ)
An sie am Clavier (1848)
Sonatine für Pianoforte mit Gesang
*バリトン・ピアノ

「"魔笛"によるポプリ」
(ヴァイオリンとハープの為の協奏的ソナタ op.114 第2楽章)
Potpourri nach Themen aus den "Zauberflöte" (1811)
*ヴァイオリン・ピアノ

「ヴァイオリンとピアノの伴奏による中声のための六つの歌 op.154」
6 Gesänge für mittlere Stimme
mit Begleitung von Violine und Piano (1856)
  1.Abend-Feier 夕べの休息
  2.Jagdlied 狩の歌
  3.Töne 音
  4.Erlkönig 魔王
  5.Der Spielmann und seine Geige 楽士とヴァイオリン
  6.Abendstille 夜の静けさ
*バリトン・ヴァイオリン・ピアノ

(同「子守唄 op.103-4」*バリトン・ヴァイオリン・ピアノ)


*出演

藪内俊弥(バリトン)
島﨑祐子(ヴァイオリン)
川北祥子(ピアノ)


*プログラムコメント

 ヴァイオリニスト、指揮者、作曲家として活躍したにもかかわらず「顎あての発明者」「指揮棒を初めて使った指揮者」「アルファベットによる練習番号を初めて使った作曲家」などと本筋から離れた点ばかり音楽史に残るシュポア。本日はそんな彼のアイディアマンぶりがうかがえる三曲を選んでみた。
 「歌を伴うピアノのためのソナチネ」は詩もさることながら、題名通りピアノパートのみでも演奏しうるよう作曲されている。「魔笛によるポプリ」はハープ奏者であった夫人との演奏旅行用の作品で、ヴァイオリンとハープの最も良い響きを生むよう調性に工夫がこらされているそうだ。ヴァイオリンの名人芸が織り込まれた「六つの歌」もいわゆるロマン派ドイツリートとしては異色作と言えるだろう。


*歌詞大意

『ピアノに向かう彼女』(ブラウンタール)

鼓動よ、嵐のように高なる胸で脈打つのをやめよ、
聞け、彼女は今、神聖な音楽の女神に身を捧げている。
彼女の想いはただ、あえて私が存在するということに
 想いを至らせる事が許される、
形のない予感だけが私に楽園を開く。

彼女に地上からこの音がカメーネの天空を
 滑り行くままにさせよ、地上は彼女の場所ではない。
どの音も、ピレーネの泉のように世界中を通って
 歌の姿で魂から魂へと心の琴線を誘い出し、運んで行く。
この響きは私の人生の中で
 なんとおののき、ざわめき、愛撫し、震えるのだろう、
私には他のどんな音も価値がない!
 ただ隠れてだけ、耳を傾け、
あなたが私の事をも嘆くだろうと信じる事を許される。
あなたに告げてよいだろうか、
 私が今すでに悩んでいる事を。

『六つの歌』
『夕べの休息』(マーン)

夕べに私はそっと忍び歩く
ジャスミンの木陰を
心地よい風が爽やかに
緑の葉を吹き抜ける時

銀色に光る月が
流れに姿を映す時
水音をたてて波がさざめき
すべての創造物は休息する

うぐいすの歌を聴こう
おお 何と心地よく
何と心の隅々までが
敬虔な気持ちに満たされることか!

私の視線は上へ向かう
星をちりばめた天幕に
私は創造主を讃えずにはいられない
神の世界は偉大で美しい!

『狩の歌』(F.シュポア)

赤くきらめく向こうを見てごらん!
朝焼けがあんなに穏やかに輝いている
さあ兄弟たちよ いざ! 女神ディアナが笑い
森や野はもう活気づいている

これ以上休んではいられない
狩はもっとすばらしい時間を与えてくれる
深い森へ急ごう
元気な犬たちとともに

野で楽しく休む食事はすばらしい
家の部屋でよりずっと
樫の木陰が私たちの宮殿
陽気さが宴を支配する

泉が爽やかな飲み物を与えてくれる
角笛が響きわたる
私たちは勇敢に藪に入る
木苺やつるやいばらの間に

向こうに猪が 角のある牡鹿が
水のしたたる泉で聞き耳をたてている
しかし死の弾丸が当たり
激しく血を流して傷口が開く

すばらしい狩は多くの喜びを与えてくれる
狩は私たちを陽気に元気にする
夕方には楽しい狩は終わり
嬉しく家へ下る

『音』(オットー)

あなたに語る言葉を私は持っていない
心の底に燃えるあなたへの想いを語る言葉を
あなたに語る言葉を私は見つけられない
どれほど憧れの痛みが胸に満ちているか語る言葉を

だから聴いてください 弦の静かな願いを
だから聴いてください 音の力強い響きを
揺れる西風のような愛のささやきを
激しい怒濤の流れのような轟きを

音が見えない翼であなたに近づいても
あなたに聴いてもらえないのなら
聴こえないよう鳴り止んでほしい
静かな苦痛に砕ける私の心のように

『魔王』(ゲーテ)

夜の風の中 誰が馬を走らせているのか
それは子を連れた父だ
父は子供を腕に抱えている
しっかりと暖かく

「息子よ なぜそんなに怯えて顔を隠す?」
「お父さん 魔王が見えないの?
 王冠をかぶって尻尾のある魔王が?」
「息子よ あれは霧の筋だ」

「可愛い坊や 私と一緒においで!
 一緒に楽しい遊びをしよう
 岸には色とりどりのたくさんの花が咲いている
 私のお母さんは金の衣装をたくさん持っている」

「お父さん お父さん 聞こえないの?
 魔王が僕にどんな約束をささやいたか?」
「落ち着いて 落ち着いて わが子よ
 風が枯葉を揺らしているのだ」

「すばらしい少年よ 私と一緒に行きたくないのか
 私の娘たちが優しく君の面倒をみる
 私の娘たちが夜の踊りを踊り
 君を寝かせ 歌い 踊ってくれる」

「お父さん お父さん 見えないの?
 暗がりにいる魔王の娘たちが?」
「息子よ 息子よ 確かに見える
 古い柳が灰色に見えるのだ」

「おまえが好きだ おまえの美しい姿が私を魅了する
 おまえが望まなくても力づくで連れていくぞ」
「お父さん お父さん 魔王が僕をつかむ!
 魔王が僕を苦しめる!」

父は恐ろしくなり 馬を急がせる
苦しむ子供を腕に抱え
ようやく館に辿り着くと
腕の中で子供は息絶えていた!

『楽士とヴァイオリン』(ホッペ)

神の眼 夕映えの前で
彼女は私に指輪を渡し誓った
指輪は砕け 誓いは滅んだ
憧れだけが私に残された

粋な奴が誘惑したのだ 洒落て軽く
甘く安っぽい調子で
彼女はついて行き 微笑んで渡されたのは
私の破れた心だった

黒い雲の間に太陽が輝く!
喜びと悲しみが同盟を結ぶ
私の苦悩は永遠に生き 決して
青白い口元で王座を失うことはない

ヴァイオリンよ デーモンの群れを解き放て
私の魔法の指揮棒が合図する
激情 狂気 暗闇の蛇の髪
私の苦悩の墓となれ!

しかし静かに エオリアンハープのように
ヴァイオリンは私の心を和らげる
その魂の音はバルサムのように
私の深い痛みを鎮めてくれる

『夜の静けさ』(コッホ)

一日が静かな休息につき
風が一緒にまどろむ
森の葉の一枚も
草原の草の一枚もそよぐことがない

穏やかであたたかい夏の息吹が
月に照らされた場所を通り
私の心の上にも
平和が柔らかい綿毛をかける

おお 静かで明るく穏やかな夜
世界が深い眠りにつく時
平和の天使だけが目覚め
心を安らかに寝かしつける時

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログのタイトルにもなっているカフェコンサートの名前は?(カタカナ5文字でお答えください。)

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://cafconc.asablo.jp/blog/2009/01/25/5685093/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。