還暦祝い〜60歳の作曲家たち(カフコンス第150回)2022-06-26

Hough
Liebermann
Silvestrini
Schnyder

*曲目

アムラン「子犬のワルツ、二度で」*ピアノ
Marc-André Hamelin (1961-)
The Minute waltz, in seconds (2012)

ハフ「ブリッジウォーター(ロマンティックな牧歌)」*ファゴットとピアノ
Stephen Hough (1961-)
Bridgewater: romantic idyll for bassoon and piano (2008)

リーバーマン「音楽は、優しい声が消えても」*ソプラノとピアノ
同「勿忘草」
Lowell Liebermann (1961-)
Music, when soft voices die op.127 (2014)
Forget-me-nots op.135-5 (2019)

シルヴェストリーニ「練習曲集 六つの絵」より *オーボエ
Gilles Silvestrini (1961-)
6 tableaux (1984/97)
  5. Scène de plage - ciel d'orage 海辺の風景−嵐の空(ブーダン)
  3. Boulevard des Capucines カプシーヌ通り(モネ)

シュナイダー「フルートソナタ」*フルートとピアノ
Daniel Schnyder (1961-)
Sonata for flute and piano (1998-9)
  1. "The Manhattanite" "マンハッタナイト"
  2. à travers les ondes élastiques de l'atmosphère
    大気の弾性波を通して
  3. a brasilera ブラジレラ


*出演

川北祥子(ピアノ)
江草智子(ファゴット)
柳沢亜紀(ソプラノ)
荒木良太(オーボエ)
中村淳(フルート)


*プログラムコメント

 本日のカフコンスは1961年生まれの作曲家たちの還暦をお祝いし、これからも楽しい作品を書き続けてもらえるよう長寿をお祈りしようという企画です。(なお開催を延期してきたので現在は3人が61歳ですが、元のタイトルを残しました。)

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 アムランはフランス系カナダのピアノ奏者で、超絶技巧のピアノ曲でも知られています。

 分と秒のダジャレのような「The minute waltz, in seconds」の「Minute waltz」は英語圏でのショパンの子犬のワルツの呼び名で「小さな(マイニュート)ワルツ」の意味、そして「in seconds」は「2度で」の意味です。2度は隣り合った音なので不協和音が続きますが、「子犬のワルツ」に子犬がもう1匹乱入して2匹くっついてじゃれ合っていると想像すると、可愛らしい曲に思えてきます。(川北)

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 ハフはイギリス出身、オーストラリア在住のピアノ奏者・作曲家。エッセイや小説も書く他、絵画の個展も開いており、楽譜の表紙にも彼自身の絵が使われています。

 ピアノ編曲が有名なハフですが、思いがけずファゴットの作品を見つけることができました。題名のブリッジウォーターは産業革命を支えたイギリス最初の運河で、どんな所なのか検索してみると、緑がいっぱいで、イギリスらしいレンガのかわいい家や橋があって、鴨の親子が泳いでいる、素敵な場所でした。ハフはこの近所に長く住んでいたそうで、ときにはメロディーを考えたりしながらここを散歩したのかなぁと思いました。(江草)

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 リーバーマンはニューヨーク生まれの作曲家・指揮者・ピアノ奏者です。今日は「memory」にまつわる2つの歌曲を歌います。皆さまにも幸せな記憶を思い出していただけますように。(柳沢)

「音楽は、優しい声が消えても」(P.B.シェリー)

音楽は 優しい声が消えても
記憶の中で振動する
香りは 芳しいスミレがしおれても
呼び覚まされた感覚の中に生きる

バラの花びらは 花が枯れても
愛する人のベッドに撒かれる
だからあなたの想いは あなたが去っても
愛としてまどろみ続けるだろう

「勿忘草」(G.S.ウンターメイヤー)

私たちは庭を抜け
疲れて 日曜の足を引きずりながら
長く入り組んだ小道を通り抜けた
そして思い出した おとぎ話で思い出すような
着飾った女性たち 恋人たち ムスクの香りを
私たちが驚かせた背の高いダリアは
肩をすくめて真紅の顔をそよ風へ向けた

さらに私たちは歩き続けた 威厳をもって傾き
私たちを気にも留めない 老いた木々の下を
そして ようやく(それはまるで贈り物
過去の夢から取り出された宝物のようだった)
菩提樹に囲まれた池に出た

曲線を描いた土手を埋めつくす勿忘草が
向こう岸から青い宝石のように輝いていた
そして それは好きなだけ摘めたのだ!
全部集めて両腕に抱えることもできたのだ!
でも私はほんの少しだけ摘んだ
七つの青い宝を
思い出の財産とするために

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 シルヴェストリーニはフランスの作曲家・オーボエ奏者。本日は印象派の絵画のタイトルがつけられた練習曲集「6つの絵」から2曲を演奏します。

 ブーダンは「空の王者」と呼ばれており青空と白雲の表現に長けていました。どんよりとした調性が嵐の雲、そして颯爽と流れるパッセージはその雲が形を変えながら風で流れていくようなことを表しているのかなと思います。

 「カプシーヌ通り」は人が密集して歩いている中にどこかフランスのお洒落な通りの風景を感じながら吹いてみたいと思います。この曲は循環呼吸という音を出しながら息継ぎをする特殊奏法を用いて演奏します。どこで息を吸ったかバレたくはないのですが、そんなところにも注目しながらお聞きいただければと思います。(荒木)

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 シュナイダーはチューリッヒに生まれジュリアードで学んだ作曲家・サックス奏者で、現在はマンハッタンを拠点に活動しています。ジャズ奏者でもある彼の作品は、クラシックと多種多様な音楽が融合したハイブリッド音楽と呼べるでしょう。

 「フルートソナタ」はジャズやラテンのテイストを持ちながら急緩急の3楽章のソナタの形をとり、全編ジャズ色が強い第1楽章も壮大なソナタ形式で書かれています。マンハッタナイトとは生粋のマンハッタンっ子を指すそうです。

 第2楽章の「大気の弾性波」はおそらく「音」を表すのでしょう。四分音(半音の半分の音程)やうねる音形、グリッサンドによって、音波の浮遊感を感じさせます。

 ロンド形式風の終楽章は「ブラジレラ(ブラジルの女性)」のタイトル通り、南米のリズムで楽しく一気に駆け抜けます。(中村)


*ブログ

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