ポール・ボウルズの音楽~生誕100年記念(カフコンス第76回)2010-11-07

*曲目

ポール・ボウルズ
Paul Bowles (1910-99):

「前奏曲 第1番」
Prelude1 Tranquillo (1938)
〜Six preludes (1934-45)(6つの前奏曲集 より)
*ピアノ

「天国の草地/孤独な男」
Heavenly grass (1946)
Lonesome man (1946)
*バリトン・ピアノ

「妹の手をとって/心から遠く離れて」
My sister's hand in mine (1945)
Farther from the heart (1942)
「フレディへの手紙/エイプリル・フール・ベイビー」
Letter to Freddy (1935)
April Fool baby (1935)
*ソプラノ・ピアノ

「かつて一人の婦人がここにいた/森の中で/秘密の言葉」
Once a lady is here (1946)
In the woods (1944)
Secret words (1943)
*バリトン・ピアノ

笑劇のための音楽
Music for a farce (1938)
  1.Allegro rigoroso
  2.Presto (Tempo di Tarantella)
  3.Allegretto (Tempo di Quickstep)
  4.Allegro
  5.Lento (Tempo di Valse)
  6.Allegro (Tempo di Marcia)
  7.Presto
  8.Allegretto (Molto staccato)
*クラリネット・トランペット・パーカッション・ピアノ


*出演

宮部小牧(ソプラノ)
藪内俊弥(バリトン)
大橋裕子(クラリネット)
松山萌(トランペット)
須長竜平(パーカッション)
川北祥子(ピアノ)


*歌詞大意

*テネシー・ウィリアムス詩

「天国の草地」

私の足は歩んだ 天国の草地を
一日中 空がガラスのように澄み輝く間

私の足は歩んだ 天国の草地を
一晩中 孤独な星々が過ぎゆく間

それから 私の足は地上を歩むために降り立った
そして 母は私を生んで泣いた

今 私の足は 遠くへ速く歩む
だが まだ覚えている 天国の草地の感触を

「孤独な男」

私の椅子はドアの側で一日中ユラユラ揺れる
でも 誰も私の前で立ち止まらない
 誰も私の所に立ち寄らない

私の歯はハムの骨をクチャクチャ噛む
そして 一人ぼっちで皿を洗う
 私一人で皿を洗う

私の足は固い木の床をコツコツ鳴らす
金物屋で愛を買おうなどとは思わないから
 店で愛を買おうとは思わない

私のシングルベッドの側で時計がカチコチ鳴る
月が私の眠れない頭を見下ろしている間
 月が愚かな老人の頭を見下ろして笑う間

*ジェイン・ボウルズ詩

「妹の手をとって」

夢で断崖に登った 妹の手をとって
そして谷に自分の家を探したけれど
見えたのは日のあたる草原と
輝く教会の塔だけ

心臓が凍えるまで探したけれど
見えたのは日のあたる草原と
輝く教会の塔だけ

一人の少女が山肌をかけおりた
 帽子につりがね草をつけて
谷に彼女の名前をたずねたけれど
聞こえたのは風と雨と
教会の鐘の音だけ

唇が凍えるまでたずねたけれど
わからないまま目覚めた
彼女の持つ名は妹の名だったのか
私自身の名だったのか

「心から遠く離れて」

ああ 勇気を持てなかったことが悲しい
恐怖を鎮めることが悲しい
今は太陽に近く 心から遠く離れて
私の最後は近いのだろう

私はピクニックからなかなか帰らなかった
 ピクニックは私より陽気だから
そして テーブルの角につかまっていた
 テーブルは私より強いから
そして 誰かの肩に寄りかかっていた
 誰でも私よりあたたかいから

ああ 勇気を持てなかったことが悲しい
恐怖を鎮めることが悲しい
今は太陽に近く 心から遠く離れて
私の最後は近いのだろう

*ガートルード・スタイン詩

「フレディへの手紙」

親愛なるフレディ

もっと早く返事をしなかったのは
あなたの事が少し心配だったけれど
まずハリーに会いたかったからなの

あなたは本当に具合が悪そうだし
パリに来るのが一番いいのではないかしら
面倒もみてもらえる
そうすればみんなで相談できるわ
あなたがどうするべきか

かわいそうね ひとりぼっちは良くないでしょう
ここへ来たほうがいいと思うけれど
どうかしら?

いつもあなたの
ガートルード・スタイン
(※ガートルード・スタインがボウルズに宛てた実際の手紙を
 テキストにした歌曲で、フレディはボウルズのミドルネーム。)

「エイプリル・フール・ベイビー」

それは愛しい彼女への手紙のよう
でも現に今日はエイプリルフール
愛しい彼女が僕のものだと言うための

馬鹿でいっぱいの四月
愛しい彼女に思いを寄せる僕

彼女のすべてを彼のものにする素敵な四月
彼の愛しい彼女へのエイプリル・フール
優しく あまりにも 甘い
僕のエイプリル・フール・ベイビー

*ポール・ボウルズ詩

「かつて一人の婦人がここにいた」

かつて一人の婦人がここにいた
この庭に座って
愛について考えていた
太陽は同じように輝き
風はゆっくりと草をなびかせた
今と同じように
そう 何も変わらない
彼女の庭は今でも同じように見える
でも 今は違う年

やがて夜のとばりが降りる
彼女がさまよった地に
月明かりに白く照らされ
ここは静まり返っている
庭の戸を通る
彼女の足音もない
いや 何も変わらない
彼女の庭は今でも同じように見える
でも 昨日は今日ではない

「森の中で」

森の中で 彼女は鳥の声を聞く
鳥は自分のために音楽を奏でる 彼女のためではなく
そして太陽は去る 森の中に影を残して

風が彼女の顔にふれて
ときに浅はかな考えがもたらす涙を乾かす
そして彼女は行く あの鳥のように
自分のために独りで歌いながら 森の中を

「秘密の言葉」

君の顔の奥に夜を見た
夜の中に星を見た
そして星は君の目となり
 私からの秘密の言葉を待っていた
でも それはありえないこと
なぜなら 夜が君の心を閉じたことを
 私は知っているから

歌おう 私たちが遠い遠い昔に
 さまよったであろう土地の歌を
歌おう 地球がもっと若かった日々の
 私たちが知りえない日々の歌を

夜の奥に海を聞いた
海の上に風を聞いた
そして風は君の声となり
 私からの秘密の言葉を望んでいた
でも これはありえないこと
闇が君の心を閉じたから


*ブログ

2010-11-08 小さなお客さま
2010-11-07 ポール・ボウルズの音楽~生誕100年記念(カフコンス第76回)