動物愛護週間・哀悼コンサート(カフコンス第42回)2007-09-23

*曲目

テレマン「カナリア・カンタータ(老練なカナリアへの追悼曲)」
Georg Philipp Telemann (1681-1767)
Kanarienvogel Kantate
Trauer-Musik eines kunsterfahrenen Canarienvogels (1737)
(ソプラノ/ピアノ)

ベートーヴェン「プードルの死に寄せる悲歌」
Ludwig van Beethoven (1770-1827)
Elegie auf den Tod eines Pudels WoO.110 (1787)
(テノール/ピアノ)

バーンスタイン「ミッピー1世への悲歌」
Leonard Bernstein (1918-90)
Elegy for Mippy I (1947-8)
(ホルン/ピアノ)

アルカン「オウムの死に寄せる葬送行進曲」
Charles Valentin Alkan (1813-88)
Marche funèbre sur la mort d'un papagallo (1859)
(ソプラノ2/テノール/バリトン/ピアノ)

(ハイドン「タークは忠実な犬だった(4重唱のカノン)」)


*出演

柳沢亜紀(ソプラノ)
兎束康雄(テノール)
大森啓史(ホルン)
川北祥子(ピアノ)

友情出演:
杉原良子(ソプラノ)
石井清貴(バリトン)


*プログラムコメント

 毎年9/20〜26は「広く国民の間に命あるものである動物の愛護と適正な飼養についての関心と理解を深めるようにするため」の「動物愛護週間」と定められています。そこで本日は亡くなった動物への追悼曲を集めてみました。
 テレマンとベートーヴェンの作品ではペットの死とその悲しみを乗り越える様子が描かれ、共通して現れる「(お前は)私の喜び」という詞からは動物への敬愛が感じられます。続く二曲は作曲者自身の身近な動物に書かれたもので、ミッピー一世はバーンスタインの兄弟が飼っていた雑種犬の名、アルカンは百羽もの鳥を飼っていたそうです。
 三百年の昔から現代までのこの四曲に、人間と動物の間の永い友情を思い、本日の演奏を動物たちに捧げます。


*テレマンのカンタータ《カナリア》について

 ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767)は、18世紀前半にドイツで活躍した作曲家です。有名なJ.S.バッハ(1685〜1750)より約4歳年上で、その名声は当時、バッハを凌ぐものでした。

 ライプツィヒ大学時代に仲間で結成した演奏グループ「コレギウム・ムジクム」のリーダーとして一躍有名になり、プロの音楽家になることを決意。その後、ゾーラウ、アイゼナハ、フランクフルトの各地で活動し、1722年に終生の地となる北ドイツ・ハンブルク市の音楽監督に就任しました。本日の演奏曲、カンタータ《カナリア》は、テレマンがハンブルクに定住して16年目の1737年に作曲された作品です。

 このカンタータは、一羽のカナリアの死を悼む葬送の音楽です。おそらく大事に飼っていたカナリアが死んでしまい、とても悲しんでいた友人のためにテレマンが書いたのではないでしょうか? その悲しみの大きさから察するに、飼い主はカナリア以外に身寄りのなかった孤独な老人を思い起させます。

 18世紀のハンブルクにおいて、ペットとしてカナリアを飼うことはすでに一般的なことだったようです。当時の新聞の広告欄を見ますと、チロル地方から行商人がやってきて、カナリアを販売していた様子がうかがえます。たとえば、このカンタータが作曲された1737年の『ハンブルク・レラツィオーンス=クーリエ』紙(3月8日付)には「ブランデス・ツヴィーテンにおいて……特に美しいカナリアが、たとえば冠毛のついた白いものや、帽子をかぶったレモン色のもの、模様つきで、翼と尾は白色の黒いもの、それも調教され、さえずり、飛びまわる鳥がお手軽価格で入手可。」という広告がでています。このカンタータの飼い主も、こうした街角でカナリアを購入し、日々の暮らしの慰めとしていたのでしょう。

 この作品は、4つのアリアと4つのレチタティーヴォで構成されています。特にアリアに注目しますと、第1曲は、きしむような半音階の旋律で、カナリアを失った飼い主の悲しみを伝え、第3曲は「嘆き悲しめ beklaget」という言葉をくりかえし、その苦しみを訴えます。第5曲に進むと、「死」に対し、カナリアを「食え fris」と、怒りを露わにした激しい歌となり、さらに第7曲は、舞曲であるサラバンドのリズムを生かした荘重な音楽で、愛鳥への別れを告げます。こうした変化に富んだ音楽が、作品全体に見事な緊張感を与えていますし、その多彩さを味わうところにこの作品の鑑賞のポイントがあるのです。(加藤拓未・かとうたくみ・音楽学)


*歌詞大意

「カナリア・カンタータ」

1.アリア
ああ、なんと悲しいことか。
私のカナリアが死んでしまった。
誰がこの悲しみをわかってくれるのか。

2.レチタティーヴォ
カナリアは、その卓越した美しい歌声で
私を幸せにしてくれた。
ああ、しかし、もうそのカナリアは
暗い土のなかに眠っている。

3.アリア
愛するカナリア、私の喜び、私の誇りよ、
おまえのために嘆こう。
おまえは、その優しい響きで
聴く者の感性を豊かにしたものだった。

4.レチタティーヴォ
もう、おまえの歌を称えることも出来ない。
おまえの歌は皆の心を惹きつけてやまなかった。
しかし高慢なひと口がそれを奪ってしまった。

5.アリア
食え、恥知らず、
お前の腹が裂けるまで、食うがいい!

6.レチタティーヴォ

私はこれ以上、
何を嘆き悲しめばいいのか。
死は鳥をいたわることはない。
私のかわいいカナリアよ、逝きなさい。
私はおまえを決して忘れない。

7.アリア
カナリアよ、安らかにおやすみ。
忠実なカナリアよ。

8.レチタティーヴォ
小さな亡骸を
冷たい土の中へ葬り、
最後に墓碑銘を刻む ー
 すべての人に喜びをもたらした
 美しい歌声の小鳥がここに眠る!
 悪魔め! 私は願う、
 皆がお前に向けて石を投げつけるように!

「プードルの死に寄せる悲歌」

死は免れず 多くの喜びが人生の路で途絶える
しばしば人生の盛りに 早くも死は刈り始める
私の喜びであるお前に流す涙は 友への涙にもまさり
お前への悲しみに その涙を止めることはできない

創造主はお前に誠実さと 朗らかさを授けた
普通の動物にはあり得ない 人を喜ばせるために
  お前は創られ私はその恩恵に与った
しばしば私が乱雑な世界に疲れ 逃れたくなると
お前は平和に満ちた眼差しで 世間と私を和解させた

お前は全く汚(けが)れがなかった
  お前の縮れ毛は黒かったのに
何と多くの人の心が お前の外見のように黒いことか
人生の暗い瞬間にも お前だけには喜びを感じた
お前は短く生き無駄に生きなかった
  お前ほど誇れるのは人間でも稀だ

だがお前の死をこれ以上悲しむまい
  お前はいつも人を笑わせていた
全て我々の愛するものは仮の姿で
  この世のどんな幸せも涙なしには残らない
失った幸せに 宿命には逆らうまい
お前は私の心の中で生き続け
  楽しい思い出を映しておくれ

「オウムの死に寄せる葬送行進曲」(アルカン詞)

もうご飯は食べたかい、ジャコ?
何を?
ああ!

女心より秋は食欲のリンリンさん2007-09-23

上野動物園リンリン。
(旧BBSのパンダ写真を移転しました。)