アメリカにおけるコーヒーと自由の関係 / カフノーツ#182005-09-25

カフノーツはコーヒーにまつわる短いお話をあれこれご紹介します。 コーヒーでも飲みながらのんびりお読みください。


 もう紅茶なんかいらない!と英国船の茶箱を海に投げ捨てたThe Boston Tea Partyは、アメリカ独立運動のひとつの契機になりました。現在にいたるまで続く、紅茶=イギリス、コーヒー=アメリカといったイメージの図式はこうした歴史的背景も下敷きになったのでしょう。そして、新天地を求めて大陸を移動した開拓者たち、黄金を求めて西部へ向かった人々、牛を追うカウボーイたち、アメリカで新しい夢を求めた人々が長い旅の道連れに持参したのがコーヒーでした。

 東理夫氏の『クックブックに見るアメリカ食の謎』という本のなかには、開拓時代以降のアメリカ人たちがどんなものを食べていたのかについて、アメリカの料理本を主軸にして説明されています。たとえば開拓者たちの食事はこんな風。

 「彼らの典型的な朝食は、ベーコンを焼くかフライにし、ビスケットかハード・クラッカーと呼ばれる乾パンに似たもの、それにコーヒーだった」(『クックブックに見るアメリカ食の謎』)

 開拓地を求めて長距離を移動した開拓者集団は、必要最低限の食料と積荷を持って出発しましたが、その必要最低限の食料品のなかにコーヒーも含まれていました。事故や災害などのアクシデントに遭遇しながらも、旅を続ける開拓者集団には、温かいコーヒーはどんな味わいだったでしょうか。

 それから数十年後、テキサスから北部へ牛を追っていくカウボーイたちの旅は、「チャックワゴン」というキッチン機能を兼ね備えた幌馬車とコック付きの贅沢なものでした。しかもカウボーイたちは、「コーヒーの味にはうるさく、毎日いったコーヒーを、ひきたてでいれなければ承知しなかった(同上)」のだとか。毎日その場で炒ったコーヒーをブラックで飲むカウボーイたち。なんだか、カウボーイたちが火を囲んで美味しそうに濃いブラックコーヒーを飲んでいるシーンが目に浮かびあがってきませんか?

 生まれたばかりのアメリカがまさに国として大きく成長しようとしているこの時期、夢を求めて行動している人々のそばにはいつも温かいコーヒーがありました。アメリカとコーヒーが密接に結びついている背景には、実はこんな歴史があるのですね。(カフコンス第20回「アメリカとオーヴェルニュの歌」プログラム掲載。)

【参考文献】東理夫『クックブックに見るアメリカ食の謎』(東京創元社)

西川公子 Hiroko Nishikawa
ウェブやフリペの企画・編集・ライティング。プレイステーションゲーム『L.S.D.』の原案、『東京惑星プラネトキオ』『リズムンフェイス』のシナリオなど。著作に10年分の夢日記をまとめた『Lovely SweetDream』。最近は老人映画研究家。

アメリカとオーヴェルニュの歌(カフコンス第20回)2005-09-25

協賛:キリンMCダノンウォーターズ株式会社


*曲目

コープランド「古いアメリカの歌」より
Aaron Copland (1900-1990)
Old American Songs
  Zion's walls (1952) シオンの城壁
  At the river (1952) 川のほとりに
(ソプラノ・ピアノ)

アイヴズ「川のほとりに」
Charles Edward Ives (1874-1954)
At the river (1916)
(ソプラノ・ピアノ)

コープランド「ノクターン」
Nocturne (1926/78)
(クラリネット・ピアノ)

カントルーブ「オーヴェルニュの歌 第4集」
Joseph Canteloube (1879-1957)
Chants d'Auvergne 4e série (1952)
  1.Jou l'pount d'o Mirabel ミラベル橋で
  2.Oï ayaï オイ アヤイ
  4.Chut, chut チュ チュ
  3.Pour l'enfant 子供のために*
  5.Pastorale 牧歌*
  6.Lou coucut カッコウ*
(ソプラノ・ピアノ +*クラリネット)

(コープランド「古いアメリカの歌 より 猫を買ってきた」)


*出演

渡辺有里香(ソプラノ)
川北祥子(ピアノ)
ゲスト:大橋裕子(クラリネット)


*プログラムコメント

 民謡シリーズ3回目の本日はアメリカの風景を描いた作品で知られる2人の作曲家を取り上げてみた。
 コープランドは「ノクターン」の書かれた初期には最先端のモダニストだったが、30年代(ニューディール政策の影響?)に「作曲家が民衆からあまりにも遊離した存在である事を自覚」して「もっと単純な表現で聴衆をひきつける音楽」に転向、「アパラチアの春」や「古いアメリカの歌(全10曲)」に代表される大衆性の強い作品を経て、50年代には(戦後のラディカリズムの影響?)また洗練に戻った。対するアイヴズは「自分の真に書きたいものを追求」するため職業作曲家にはならず実業家としてアメリカンドリームを叶えたユニークな存在。「川のほとりに」はキャンプの集いでの歌を「風景の一部として」取り込んだヴァイオリンソナタを自身で歌曲に転用したもの。
 「オーヴェルニュの歌」では繰り返される旋律の伴奏の変化も聴きどころの一つだが、「ミラベル橋で」は特に1、3節と2節の対比が際立つ。「オイアヤイ」「チュチュ」「子供のために」は方言が印象的。「牧歌」は有名な「バイレロ(第1集第2曲)」の姉妹曲と言えるが、詞は愛の歌ではなくコミカルな内容。「カッコウ」では全編にカッコウの声が響く。


*歌詞大意

「シオンの城壁」(コープランド)

*来たれ 父よ 母よ
姉妹よ 兄弟よ
ともにシオンを讃えて歌おう

**父よ シオンの城壁の中で
出会う決心をしているか
シオンの城壁の周りを声高らかに行進しよう

*来たれ〜
*来たれ〜
**父よ〜

「川のほとりに」(コープランド)

川のほとりに集まろう
輝く天使が降り立ったところ
その澄んだ水が永遠に
神の王座の傍らを流れる場所に

*そうだ 川のほとりに集まろう
美しい 美しい川のほとりに
聖人たちとともに集まろう
神の王座の傍らを流れる川のほとりに

もうすぐ私達は光る川に着く
もうすぐ私達の巡礼の旅は終わる
もうすぐ私達の幸せな心は
平和の調べにふるえる

*そうだ〜

「川のほとりに」(アイブズ)

川のほとりに集まろう
輝く天使が降り立ったところ
その澄んだ流れが永遠に
神の王座のかたわらに満ちる場所に

川のほとりに…

そうだ 川のほとりに集まろう
美しい 美しい川のほとりに
聖人たちとともに集まろう
神の王座のかたわらに流れる川のほとりに

集まろう…
川のほとりに集まろう…

「オーヴェルニュの歌 第4集」(カントルーブ)

1.ミラベル橋で

ミラベル橋で
カタリーナが洗濯していた

武器を持った三人の騎士が
そこを通りかかった

ミラベル橋で
カタリーナが泣いていた

2.オイ アヤイ(困った時の言葉)

オイ アヤイ どうしましょう
帽子がないわ!
*ピエロ(ピエール)は市場へ行った
ピエロは彼女にそれを買った
ピエロは彼女にそれを持って行った
ピエロは彼女にそれをやった
でも彼女は起きない
まだ彼女は起きない
「起きろ 起きろ 夜が明けた!
マルガリダータ(マルグリート) 起きろ!」

オイ アヤイ どうしましょう
ペチコートがないわ!
*ピエロは〜

オイ アヤイ どうしましょう
シュミーズがないわ!
*ピエロは〜

オイ アヤイ 寒いわ
ベッドを出なくては
彼女はシュミーズを身につけた
そしてスカートも
そしてコルセットも
そしてスカーフも
そしてパンタロンも
そして帽子をかぶった
「なんて私は綺麗なんでしょう!」
そしてマルガリータは起きた!

4.チュ チュ(しっしっ静かに)

お父さんに仕事をいいつかった
牛の番に行くのだ
チュ チュ しゃべらないで!
チュ チュ 騒がないで!

そこに着くやいなや
恋人が私に会いにやってきた
*チュ チュ〜
紡ぐよりもたくさん
彼は私にキスしてくれた!
*チュ チュ〜

もっと着飾った娘はいるけれど
私ほどたくさんキスはされていないでしょう!
*チュ チュ〜

3.子供のために

ねむけ ねむけ ミノ ミナウノ(あやす言葉?)
坊やのところへおいで!
でもねむけはまだやって来ない
いじわるなねむけ 坊やは眠らない!

ねむけ ねむけ ミノ ミナウノ
坊やのところへおいで!
テーブルとベンチの下を通って
いじわるなねむけ 坊やのところへおいで!

5.牧歌

バイレロ レロ レロ 川の向こうの羊飼い!
刈り入れに出かける野うさぎを見かけなかったかい
前足で鎌を 後足で砥石を持って
パンを背負い 鍵をぶらさげて バイレロ レロ…

見かけただけでなく
捕まえたさ バイレロ レロ…

バイレロ レロ レロ 川の向こうの羊飼い!
それで毛皮はどうした? 耳は?
尻尾は? 全部どうした? バイレロ レロ…

毛皮はマントにしたさ! 二つの耳は手袋に!
尻尾はトランペットに! 欲しいかい?
持っていってやるよ バイレロ レロ…

6.カッコウ

カッコウは美しい鳥だ
歌っているカッコウほど
美しい鳥はいない
*私のカッコウ おまえのカッコウ
みんなのカッコウ! え?
歌っているカッコウを見たことがないの?

野原の向こうに
赤く花の咲いた樹がある
そこでカッコウが歌っている
*私のカッコウ〜

もしすべてのカッコウが
一緒に歌おうとしたなら おお!
五百本のトランペットになるだろう!
*私のカッコウ〜


*カフノーツ

#18 アメリカにおけるコーヒーと自由の関係