コーヒーと創作熱との熱い関係 / カフノーツ#13 ― 2005-01-16
カフノーツはコーヒーにまつわる短いお話をあれこれご紹介します。 コーヒーでも飲みながらのんびりお読みください。
コーヒーは、創作エネルギーと深い関係があるようです。なにかに打ち込むとき、不眠不休で働き続けるのはよくあること。このような創作への集中力と持久力を支えていた飲物が、コーヒーなのでしょう。コーヒーの力を借りて数多くの執筆をこなしてきたさまざまな著作家たちの多くが、コーヒーに関する名言を残しています。
ブリア=サヴァランは、『美味礼賛』の中で「コーヒーが頭脳の働きを興奮させることは疑う余地がない」「コーヒーが原因である不眠は苦痛でない」と、コーヒーの効果について語っています。また、哲学者ヴォルテールや博物学者ビュフォンが多量のコーヒーをとっていたことによって「異常な頭脳の興奮状態」で、彼らの作品が生み出されてきたのだろうとも付け加えています。もちろん彼自身も、コーヒーの威力に屈服させられたうちのひとり。徹夜仕事のために用いたコーヒーから、四十時間ものあいだ眠れなかった体験から、コーヒーをやめることにしたのだそうです。
しかし、「コーヒーに関する限りブリア=サヴァランはいかにも物足りない」と不満げなのは、まさにコーヒー中毒ともいえる作家オノレ・ド・バルザック。徹夜仕事に一番強くて効くのは、無水で入れた濃いコーヒーを冷たいまま空腹時に飲むことと豪語。この黒い火薬のような濃いコーヒーが、体内に戦闘を働きかける勇姿を文学的に表現しています。まさに「コーヒーはわれわれを内部から焼く物質である」といってのけるバルザックの面目躍如といったところ。自らを焼きつくす火薬のようにコーヒーを飲み続け、『人間喜劇』など数多くの作品を生み出したエネルギッシュなバルザックならではです。
ただし、コーヒーの効能を知り尽くしていたバルザックは、さらにこう付け加えています。「コーヒーが才知を与えてくれると思いこんでいる人は結構少なくない。だが誰にもわかる通り、退屈な人間はコーヒーを飲んでもますます退屈なだけではないか」
コーヒーは、作家の創作熱を加速してくれるけれども、才知とは別もの。徹夜をしても、いい作品を生み出すかどうかはその人次第。試験前にコーヒーの力を借りて一夜漬けで勉強しても、あまりいい結果がでないのと同じですね。
科学者 寺田寅彦が「好きなもの イチゴ珈琲花美人 懐手して宇宙見物」と歌ったように、やはりコーヒーはただ「好きなもの」として楽しみたいものです。
これは禅の公案ですが「喫茶去(きっさこ)」という言葉が、いちばんコーヒーにはぴったりするかもしれません。あれこれ役立てようと考えずに、ただコーヒーと過ごす時間を楽しむのがいちばん。まあ、コーヒーをお飲みなさいな。(カフコンス第13回「新春~箏と三絃の饗宴」プログラム掲載。)
【参考文献】バルザック『風俗研究』(藤原書店)ブリア-サヴァラン『美味礼讃』(岩波文庫)『寺田寅彦全集』(岩波書店)寺田寅彦『俳句と地球物理』(角川春樹事務所)平野雅章他編『食の名言集』(東京書籍)
西川公子 Hiroko Nishikawa
ウェブやフリペの企画・編集・ライティング。プレイステーションゲーム『L.S.D.』の原案、『東京惑星プラネトキオ』『リズムンフェイス』のシナリオなど。著作に10年分の夢日記をまとめた『Lovely SweetDream』。最近は老人映画研究家。

コーヒーは、創作エネルギーと深い関係があるようです。なにかに打ち込むとき、不眠不休で働き続けるのはよくあること。このような創作への集中力と持久力を支えていた飲物が、コーヒーなのでしょう。コーヒーの力を借りて数多くの執筆をこなしてきたさまざまな著作家たちの多くが、コーヒーに関する名言を残しています。
ブリア=サヴァランは、『美味礼賛』の中で「コーヒーが頭脳の働きを興奮させることは疑う余地がない」「コーヒーが原因である不眠は苦痛でない」と、コーヒーの効果について語っています。また、哲学者ヴォルテールや博物学者ビュフォンが多量のコーヒーをとっていたことによって「異常な頭脳の興奮状態」で、彼らの作品が生み出されてきたのだろうとも付け加えています。もちろん彼自身も、コーヒーの威力に屈服させられたうちのひとり。徹夜仕事のために用いたコーヒーから、四十時間ものあいだ眠れなかった体験から、コーヒーをやめることにしたのだそうです。
しかし、「コーヒーに関する限りブリア=サヴァランはいかにも物足りない」と不満げなのは、まさにコーヒー中毒ともいえる作家オノレ・ド・バルザック。徹夜仕事に一番強くて効くのは、無水で入れた濃いコーヒーを冷たいまま空腹時に飲むことと豪語。この黒い火薬のような濃いコーヒーが、体内に戦闘を働きかける勇姿を文学的に表現しています。まさに「コーヒーはわれわれを内部から焼く物質である」といってのけるバルザックの面目躍如といったところ。自らを焼きつくす火薬のようにコーヒーを飲み続け、『人間喜劇』など数多くの作品を生み出したエネルギッシュなバルザックならではです。
ただし、コーヒーの効能を知り尽くしていたバルザックは、さらにこう付け加えています。「コーヒーが才知を与えてくれると思いこんでいる人は結構少なくない。だが誰にもわかる通り、退屈な人間はコーヒーを飲んでもますます退屈なだけではないか」
コーヒーは、作家の創作熱を加速してくれるけれども、才知とは別もの。徹夜をしても、いい作品を生み出すかどうかはその人次第。試験前にコーヒーの力を借りて一夜漬けで勉強しても、あまりいい結果がでないのと同じですね。
科学者 寺田寅彦が「好きなもの イチゴ珈琲花美人 懐手して宇宙見物」と歌ったように、やはりコーヒーはただ「好きなもの」として楽しみたいものです。
これは禅の公案ですが「喫茶去(きっさこ)」という言葉が、いちばんコーヒーにはぴったりするかもしれません。あれこれ役立てようと考えずに、ただコーヒーと過ごす時間を楽しむのがいちばん。まあ、コーヒーをお飲みなさいな。(カフコンス第13回「新春~箏と三絃の饗宴」プログラム掲載。)
【参考文献】バルザック『風俗研究』(藤原書店)ブリア-サヴァラン『美味礼讃』(岩波文庫)『寺田寅彦全集』(岩波書店)寺田寅彦『俳句と地球物理』(角川春樹事務所)平野雅章他編『食の名言集』(東京書籍)
西川公子 Hiroko Nishikawa
ウェブやフリペの企画・編集・ライティング。プレイステーションゲーム『L.S.D.』の原案、『東京惑星プラネトキオ』『リズムンフェイス』のシナリオなど。著作に10年分の夢日記をまとめた『Lovely SweetDream』。最近は老人映画研究家。
新春~箏と三絃の饗宴(カフコンス第13回) ― 2005-01-16


*曲目
一. 二世山木太賀「子の日の遊」*
二. 吉沢検校「千鳥の曲」
三. 中能島欣一「新潮」
(沢井忠夫「花筏」)
*出演
設楽聡子(箏/唄)
鈴木真為(箏/三絃*/唄)
*歌詞
「子の日の遊」ねのひのあそび 二世山木太賀 作曲
初春の、初子の野辺に皆人の、いざとしいへば諸共に
われも雪間の小松原、二葉に千代を引きそへて
まとゐしつつも盃に、くむや霞のそなたなる
岡辺の梅もあたらしき、年の栄を見せがほに
花のひもときをちかたの、ひとむら竹に鴬の
ももよろこびは今日よりと、声立てそめつのどかなる
御代の春とて老いぬるも、若きもともにかくしつつ
心ゆく野をとふが嬉しさ
「千鳥の曲」ちどりのきょく 吉沢検校 作曲
塩の山、差出の磯にすむ千鳥
君が御代をば八千代とぞなく
淡路島、通ふ千鳥のなく声に
幾夜寝ざめぬ須磨の関守
幾夜寝ざめぬ須磨の関守
「新潮」にいじお 島崎藤村 作詞/中能島欣一 作曲
夕潮青き海原に すなどりすべく漕ぎくれば
巻きては開く海の上の 鴎の夢も冷やかに
浮び流るる海草の 目にも幽かに見ゆるかな
見ようるはしの夜の空 見ようるはしの空の星
北斗のきよき影冴えて 望みをさそふ天の花
とわの宿りも舟人の 光を仰ぐためしかな
潮を照らす篝火の きらめくかたを窺へば
松の火あかく燃ゆれども 魚行くかげは見えわかず
流れは急しふなべりに 触れてかつ鳴る夜の浪
*カフノーツ
#13 コーヒーと創作熱との熱い関係
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